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    2-2




「よーし、もう一回行くぞー」

 せーの、と殊更明るい声。クラスの声がそれに続く。

「せぇー………で……?」

 やはり、かけ声は続かない。わたしは即座に東山を振り返る。

 そこには、嘲笑。

 黒いスニーカーに踏まれた縄。

 わたしは、ゆっくりと何か抑え難いものが腹の中で渦巻いているような錯覚を受けた。


 あぁ、また、蛇が動き出した、


 わたしはこの、怒りとも不甲斐なさともつかない感情を『蛇』と呼んでいる。『蛇』がかま首をもたげた時、わたしはどうにも理性による抑えがきかなくなってしまうのだ。最近はそんなこともなかった。だからずっと眠ったままの『蛇』が起き出したとき、私自信何をしでかすか分かったものじゃない。

「……誰か、縄踏んでるぞー。足どけてー」

 橋田くんの気丈な声。他のクラスは10回、20回と着実に回数を重ねている。

 縄係の橋田くんが力一杯腕を回すが、縄は地面からほとんど離れることなく張った。

「誰だよー、踏んでるの!」

 東山が笑いながら言う。

 のそり―――。

 『蛇』が、首を上げた。そう自覚したときには、わたしの体は東山の方へ向かっていた。

「何だよ。学年一位」

 嫌味ったらしい声。わたしは東山の顔を見ずに視線を地面に落とした。縄を踏んでいる足を一瞥。そのまま視線を上へと移動する。

「……足、どけなよ」

 わたしは言いながら東山の向こう脛を思いきり蹴った。

「――ってぇ! 何しやがるっ」

「何しやがるはテメェの方だろうが! 中学生にもなって、他人に迷惑かけてんじゃねーよっ」

 クラスが唖然とする。東山なんかは、ぱしぱしと忙しく目をしばたいてわたしを見ていた。

「……お前、何したか分かってんのか! オレは朝霞さんの配下だぜ」

「だから何よ。朝霞も大変だなぁ、あんたみたいなやつが派閥にいて!」

「な……んだと……ッ」

「聞こえなかったんならもう一回言ってやるよ! あんたみたいな自分のことしか考えられないやつらがいるから朝霞は要らん苦労をするんだ! どこかの派閥に入ってるんなら尚更、クラスに協力しなさいよ! 文句ばっかり言って何もしないお前は幼稚園児以下だ!!!」

 一気にまくし立てた。東山が反論できずにわたしを睨むけれど、また蹴られると思ったのか、情けないへっぴり腰になっている。ちょうどその時、チャイムが鳴り響いた。

「じゃあ、10分休憩ー。チャイムが鳴ったら、個人競技の練習だからな」

 橋田くんが言うと、列は崩れる。わたしは真唯ちゃんと一緒に水飲み場へ歩いた。

「……やっちゃったぁーっ」

 深い溜め息と共に漏らすと、真唯ちゃんは労うように肩を叩く。

「かっこよかったよー。あずでもキレるんだぁ、ってちょっと意外」

「あんなの日常茶飯事ですよ。でも中学生になったらおとなしくしてようって、思ってたのに……あンの東山め……」

 わたしは毒を吐くように言う。でも、半分くらいは照れ隠しだった。

「でもさー、東山最近調子のったから。イイ薬なんじゃない?」

 真唯ちゃんが校庭の方を眺めながら肩をすくめる。次の時間は、一・二年生合同でやるらしい。松本良平や朝霞大翔の姿があった。




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