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「あーっもう、最悪!!!」
教室に戻ったわたしは、机に拳を思いきり叩き付けて叫んだ。真唯ちゃんが目を丸くして歩み寄ってくる。
「どうしたの? 結局さっきの時間帰って来なかったね」
「派閥に入らないのかって!」
「それで? 入ることにしたの?」
問われ、わたしは冗談じゃないと憤慨しながらジャージに着替えていく。
「まぁまぁ落ち着いて。……でも、あずってなんか大物だよねぇ」
真唯ちゃんの言葉に思わず笑って彼女を小付くと、真唯ちゃんも一緒に笑顔になった。
校庭に出ていくと、その中心近くで学級委員が声を張り上げていた。確か女子は伊藤亜衣香ちゃん、男子は…………橋田なんとか君って言うんだ。まだ、クラス全員の名前を覚えているわけではない。
「早く並べよーっ他のクラスはもう練習してるだろぉっ!」
橋田くんの声に、わたしと真唯ちゃんは小走りになった。数人のクラスの男子の横を通る。追い越しざま、その言葉が耳についた。
「たりぃーっ。何でクラス競技なんてあるんだよ」
「つぅかさ、他の派閥のやつと協力する意味とかなくね?」
―――黙って練習できないのかなァこいつらは
わたしはその男子たちに一瞥くれてやりながら、心の中で呟いた。
こういう、自分は何もせずに文句ばかり言っている人間はわたしが苦手とするタイプだ。いや、苦手というよりも、嫌悪感が先立つ。小学校の時もそういう男子を何人か『やっつけた』ことがあった。
「あず、どうしたのー? 顔怖いよー?」
「それにしてもさぁ、あいつら」
「誰?」
「いま文句言ってたやつら。ああいうの、あたし大嫌いなんだよねー。見ててむかつくー」
今度は真唯ちゃんが顔をしかめる。わたしは、目を丸くした。何だか、嬉しい。本当に真唯ちゃんはいい子だな――――思わず、わたしは真唯ちゃんに抱きついた。
「わっ? どうしたの?」
「真唯ちゃんさいこーっ」
「誉めても何にも出ないよ」
胸を張る真唯ちゃん。わたしたちは声を立てて笑った。
わたしと真唯ちゃんは長縄の列の中に入る。
「じゃあ行くぞー。せぇの!」
橋田くんの掛け声。クラスの何人かがそれにあわせた。
「せぇーで! いー……ち……?」
数える声は尻すぼみになった。ピンッと縄が張る。ふっと縄の中心の方を見ると、さっき文句を言っていた男子たちがにやにやと笑っているのが見えた。
「どんまいどんまい! もう一回行くぞ!」
わたしは、その男子たちの方を向いたまま跳ぶ体勢をとる。
「せぇーの、」
「せぇーで! い……っ」
再び。今度も誰か飛べていない人――否、飛んでいない人がいた。それが誰かは、言うまでもない。
わたしはその男子たちの側まで歩み寄った。そいつらは
「なんだこいつ、」と言うような顔を向けてくる。なんだこいつ、はお前らのほうだ。
「西山くん」
「いや、東山だから」
わたしが睨んだ一番背の高い男子――西山、もとい東山は、律儀に訂正をいれる。でも、彼が東だろうと西だろうとわたしには関係ない。
「それはどうでもいいけど―――ちゃんと跳びなよ」
「はぁ? 跳んでるから」
東山が顔をしかめる。橋田くんや真唯ちゃんがわたしの横に来て、わたしと東山とを見くらべた。
「あず……?」
「今、跳んでなかったじゃん。何が気にくわないのか知らないけど、いい加減にしてくれない?」
「人のせいにすんなよ。お前がひっかかんてんじゃねぇの?」
東山の言葉に、他の男子たちが笑いだす。
「はいはい。言ってれば? この、低レベル」
わたしは彼らにそう吐き捨てる。東山が絶句し、今度は真唯ちゃんや橋田くんが笑い出す番だ。
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