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    1-3




 わたしが連行されてきたのは、例によって生徒会室である。『コ』の字形に並べられた長机に各『武将』たちが着席していた。壮観。足がすくむわたしを残して、松本良平と朝霞も空いている席につく。

―――沈黙。

 始業を告げるチャイムが鳴るが、彼は教室に戻る素振りすら見せない。

 一時間目は歴史だ。わたしは何より歴史の授業が好きなのだ。けれどこの雰囲気で『教室に戻りたい』なんて切り出せるはずがなかった。



―――あぁ……さようなら金印……卑弥呼……銅鏡……



 そもそも、わたしが今ここで立たされている理由が分からない。入学してからというもの、先輩に呼び出されてばかりだ。わたしは、ただ普通に生活しているだけなのに。

 なんだか、泣きたくなってきた。

「呼び出して悪いね。派閥届けを出していない一年生に、今後どうするのか聞いていたんだ」

 机の中心、上座に腰を下ろした二年生が口を開く。生徒会長―――春日井廉士。穏やかな笑みを浮かべた顔でこちらを見る彼は、しかし至極真面目な口調が、ますますわたしを怖じ気付かせる。

「一年五組、水野梓ちゃん―――派閥届け出してないよね」

「……は、はい」

「それは単なる出し忘れ? それとも、まだ迷っているのかな」

 笑顔で理由を求められると、答えない訳にはいかない。―――と、言うより答えなければ授業に戻れないような気が、した。

 美人だがその分笑顔に迫力がある。朝霞とはまた違った威圧感に、わたしは観念せざるを得なかった。

「出し忘れでも、迷ってるわけでも、ないです。……あの、わたし、ゲームに参加する気はないので……」

 しどろもどろになって答えると、春日井はフと隣に座る松本良平と視線を交した。松本良平は苦笑とも微笑ともつかない表情で肩をすくめる。

 何なのかイマイチ状況がつかめないが、どうも腹立たしさが込み上げてきた。わたしは二人を思いきりにらみつけて次の言葉を待った。

「もったいないね―――君がゲームに参加すれば、おもしろい展開になると思うのだけど」

「あたしは学校に、ゲームをしに来ているわけじゃありません。……少なくともこうして授業時間にまで食い込んだ話し合いや、おもしろい人の成績を勝手に漏らす会議には賛同するつもりもありません」

 それだけ一気にまくしたてると、わたしは息をついて『武将』たちを見回した。

 朝霞と目があう。不良の図書守は口端を持ち上げて見せた。何だか少しだけ、勇気が湧いたような感覚を覚えたのが不思議だ。


「―――なるほどな」

 春日井はふぅと息をついて再びわたしの方をみた。

「じゃあ梓ちゃんは一匹狼、の方針で」

「…………どっちかっていうと狼より猫っぽいけど」

 会長の言葉に風紀守が呟くと、座には失笑がこぼれた。

 わたしは何とも言えない複雑な気分で立ち尽くす。



―――あたしは狼でもなければ猫でもないんだけど。



 憮然と胸中で呟いていると、今度は春日井と目があった。

「悪かったね、もう教室に戻ってもいいよ」

「はい。……失礼します」

「―――あ、梓ちゃん。放課後、また来てくれる、此処に?」

 会釈して生徒会室を出ようとしたわたしは、春日井の穏やかにも容赦ない言葉に、硬直してしまった。



―――あとで、保健室に胃薬もらいに行こ…………。


 わたしは制服の上から胃に手を当てると、そう心に誓った。







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