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「水野ォー。いるかぁ?」
何てことだ。
噂をすれば何とやら。教室の前のドアから教室を覗きこんで私の名を読んだ二年生は、教室の中を見渡す。
「…………真唯ちゃん、あたしちょっと旅に出てくるから! よろしく!」
「え? どこいくのー?」
目を丸くして訊いてくる真唯ちゃんに手を振って、私はこそこそと教室の後ろのドアに向かう。
この一週間、松本良平に関わって、ロクなことがなかった。一日の始まりから彼に関わるのはごめんだ。
「―――何やってるんだ、お前?」
低く屈んだ私の目の前にある制服の足。私の頭の上に降ってくる、少し呆れたような声。
はっと顔を上げると、制服を着崩した茶髪の二年生、―――朝霞大翔と目があう。
―――敵は一人じゃなかったか…………っ!!
教室の前に松本良平、後ろに朝霞。万事急須というやつだ。
「あ、あの、ちょっとあたしお腹が痛くて…………」
「……嘘つけ。今までピンピンしてたろ」
朝霞は私の苦し紛れの言い訳を一蹴し、松本良平を呼ぶ。
「お、ここにいたのか水野」
「いえこれから保健室に行く予定ですので」
私は具合が悪そうに見えるように腹を押さえながら言う。
松本良平は私の顔を覗きこもうと少し体を屈める。私は反射的に顔をそらした。
「…………んー、大丈夫そうだな」
松本良平はサラリと言い、ついて来い、と私を促す。私としてはついていく気はさらさらないのだが、朝霞に腕を掴まれているので、ついて行かざるを得ない。
まったく、入学して2週間と経っていないのに、こうして連行されるのは一体何度目だろう。
―――あぁ、何だか本当にお腹が痛くなってきた。
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