♭プロローグ「春休み」
ぼくがおきたのは、9時半だった。
今日は部活がある。
今は春休みの初日。そして、ひかりは一日中練習する、と言っていた。
予定は、9時から4時。お弁当もち。
ぼくの両親は、共働きで朝が早い。
だからぼくは、お弁当を買うしかない。
部活が始まるのは9時。
ぼくの起床時間は9時半。
これは。
どうしても遅刻だ。
ま、いいよね。
めんどくさいから、今日は。
休もう(さぼろう)!
そうと決まれば久しぶりにゲームでも!
と、思ったときに、ぼくの机(結構かたずけられてるんだよ)においてある電話の子機が鳴った。
ぼくは携帯を持っていないから、親からなぜか子機を持たされている。
外には持っていかないけどね。
うるさいな。まったく。
出るか。
「はい。立花です」
ちなみにぼくの苗字は「立花」。忘れられがちだけどね。
『おはようございまーす。立花さんのお宅でしょうかー?』
やけにだらけた女子の声が聞こえる。
だからさっき立花ですって言ったじゃんか。
「立花ですけど?」
若干いらいらしながら答えるぼく。
『じゃあ稔くんいますかあ?』
「ぼくですけど?」
『あ、稔?』
あれ。
ちょっと待て。
この声は・・・。
『おまえさ、今何時だと思ってんの』
受話器の向こうから低い声。
「え、・・・っとね。く、9時半・・・?」
『そうそう。9時半。9時になっても来ないから、時計読めないのかと思った』
まさか・・・。
「か、わむら、さん・・・?」
ぼくは、恐ろしい逆切れと自分を棚に上げるのが得意(と、言うより才能)な、吹奏楽部の部長、川村ひかりの、あえて苗字を言った。
『は?なにおまえ。今起きたわけ』
電話の向こうからは、相変わらずの低い、不機嫌な声。
『うわあいつ寝坊!?ださっ』
ひかりと一緒にななみもいるのか、小さくななみの声も聞こえた。
春休みでもななみの毒舌は無休です・・・。
「うん。寝起きー」
ぼくはまだ眠気が残っている目を擦った。
『なら、今すぐ顔あらって歯磨いて着替えて弁当かって学校きやがれえぇぇぇぇえぇぇぇぇ!!!』
「うわぁおっ」
ぼくは子機を耳から離す。
ひかりの叫び声は耳にキンキンくるから嫌いなんだよ・・・。
「急いでくる!」
ぼくは子機に向かって怒鳴ると、急いで通話を切って、寝巻きを脱ぎ捨てた。