えたいのしれないものたろう
おじいさんが山の柴刈りから帰ってくると、土間にえたいのしれないものがあったそうな。
「おじいさん、おじいさん、川上からえたいのしれないものが流れてきましたよ。
ふたりでいっしょに食べましょう」
と、洗濯に行っていたおばあさん。
おじいさんは、
(いや、えたいのしれないもの拾って…食べるんかい)
(そもそもそれ十尺はあるじゃろう、その細腕でどうやって持ってきたんじゃ)
(おばあさん、お前様が得体の知れない気がしてきたぞ、わし)
と、思っとったが、連れ添って早四十余年、おじいさんの言う事を聞いてくれたためしはなく、
うなずくより他はなかったぞな。
黒光りして脈動してぎょろぎょろとうごめく大小の目玉らしいものも数十はついていて、
しかも耳を近づけると変なうめき声が聞こえてくるえたいのしれないものだったが、
おばあさんはためらう素振りもせずに大鋸を持ってきて切りはじめたぞな。
『ギェェェェェ!ギエエエエエエエ!』
刃を入れるたびに黒っぽい何かの液が飛び散り、身の毛のよだつような叫び声に耳をふさぎつつ、
どうにか真っ二つにしたところ、中から出てきたのは赤子…赤子?たぶん赤子だったぞな。
「ほやぁぁぁ!ほやぁぁぁ!」
…泣き声…いや鳴き声?は赤子だったぞな。
見た目も短い手足、しわくちゃで真っ赤な顔、えたいのしれないものからつながったへその緒、
なのじゃが…うっすら生えておる髪の毛?らしきものがうぞうぞ動いておったぞな。
「おじいさん、どうしましょう。赤子はさすがに食べられません」
おばあさんはこの期に及んでまだ食べることを考えておるぞな。
「しかたあるまいに、わしらには子もおらぬし、この赤子は育てよう」
捨てるのもなにか恐ろしいし、という本音を飲み込んだおじいさんの言葉におばあさんもうなずき、
えたいのしれないものから出てきた赤子は育てることになったぞな。
あ、赤子をくるんでいたえたいのしれないものは鍋にして二人で食べたぞな。
おじいさんはおっかなびっくりじゃったが、なんか美味だったぞな。目玉はコリコリしてたぞな。
おばあさんはおかわりどころかうれしそうに大半を平らげたぞな。
赤子は「えたいのしれないものたろう」と名付けられたぞな(命名・おばあさん)。
さて、おばあさんもさすがに乳が出るはずもなく、近くの若い子持ちにもらい乳に行ったぞな。
ところが、幾人かの子持ち女にもらい乳を引き受けてもらえたものの、
えたいのしれないものたろうはその誰からも飲もうとしないぞな。
さすがに何も口にせねばまずかろう、と、麦がゆをうすくうすくのばして飲ませたが、
それもいやいや飲んでいるようなそぶりだったぞな。
この頃、夜な夜なふしぎなことに、森から鳥や獣のいきものの気配が少しずつ消えていったぞな。
それに比例して、えたいのしれないものたろうはすくすくと肥えていったぞな。
おじいさんは何も察したくなくて、ひたすら口をつぐんでいたぞな。
ひと月もすると、えたいのしれないものたろうは身の丈七尺を超える大男となったぞな。
相変わらず、髪の毛?らしきものは垂直方向に伸びた上でうぞうぞ動いておるぞな。
「おじいさん、おばあさん、戦いがわたしを呼んでいます」
えたいのしれないものたろうのはじめての言葉がこれぞな。
唐突に何を言い出したのか、おじいさんは理解できなかったぞな。
「まあ、まあ、立派になって。あのとき食べてしまわないで本当によかったわ」
おじいさんはおばあさんの精神構造もやっぱり理解できなかったぞな。
「まずは手始めに、鬼が棲むという島へ殲滅に行ってきます」
どこから得た知識なのか、えたいのしれないものたろうは最初の標的を見定めていたぞな。
おばあさんは感極まって、納戸からかつて愛用していた武器防具を引っ張り出してきたぞな。
そんなものが納戸にあったことをその際はじめて知ったおじいさんは仰天したぞな。
「では、まいります。略奪品は期待していてください」
と言葉を残し、えたいのしれないものたろうは武器防具を身につけて旅立ったぞな。
それからひと月後、えたいのしれないものたろうが大量の財宝を荷車に積んで帰ってきたぞな。
「鬼どもは殲滅しました。歯ごたえありました」
その歯ごたえとは、強かったという意味か、それとも食感か、おじいさんは聞くのが怖かったぞな。
「金銀財宝はここに置いていきます。育てていただいた御恩にお納めください。
これよりさらなる戦いが待っているのでここへは戻りません。お二人ともお元気で」
おばあさんは涙を流したぞな。もうえたいのしれないものたろうと会えないことに。
おじいさんも涙を流したぞな。やばいものに流されて、やばいものを解き放ってしまったことに。
自分でも何書いてるのかなーと思います。考えたら負けですが。




