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エピローグ

 ――帝都エノクに、ドリス博士とエステルさんが帰還した。彼女達はまずトレーユ先生と国にダンジョンの破壊とダンジョン主の討伐、そしてそれに付随して得られた情報を報告した。


 それを疑う者はいなかった。なぜならその日、突如として〈セイラム・ダンジョン〉より到来したとされるすべての魔獣が、活動を停止したのだから。

 その報は翌日には一斉に国中はもちろん、周辺国にも通達された。


 〝人類は、初のダンジョン制覇を成した〟


 と。

当然、それを聞いた皆が喜びに湧いた。しかし当事者とその関係者達は素直には喜べない。なぜならこの結果をひとつ築くために、ただの概算値と化してしまうほど多くの命が散ってしまったのだから。

 そこには同居人の男性、ヴァルカ・グランも含まれている――――。

 とは、ミーシャ・レスレメルはまだ認めていなかった。


「ヴァルカくん……」


 彼女は今日も、エノクを取り囲む外壁の正門前に来ていた。

 彼の帰りを、迎えるために。

 もう攻略クエストの日から二週間が経過している。通常なら死亡扱いでもおかしくない。

 でも、


「……約束、まだ破ったとは言わせない」


 ドリス博士やエステルさん、そしてトレーユ先生達が、自ら捜索隊を率いてダンジョン跡に赴き、ヴァルカくんをはじめ、ひとりでも多く生存者を見つけ出そうとしている。そのかいもあってか、あの日戦闘に参加した者達の生き残りが毎日ぽつぽつと見つかっているのだ。

 しかし、そこにヴァルカは未だ含まれていない。


「…………」


 今日も夕日が沈もうとしている。結局この日も待ったところで、待ち人は訪れなかった。

 ミーシャは決意していた。

 彼が帰るまで、いつまでも待つと。

 それはたとえ、年老いたとしても。


(また明日も来よう)


 そう思って、背を向けたそのときだった。


「――シャさん……!」


 自分を呼ぶ小さな声が、かすかに耳に届く。


(今のは……!)


 あまたの環境音や往来する町の人々の声を振り切り、今一番聞きたい愛しい音が、心地よく鼓膜を揺さぶった。

 振り返ると、


「……!」


 こちらに向かって、左腕のないボロボロの黒マントの男が一人歩いて来ていた。

 そのシルエットは小さく、まだ〝彼〟と同一人物だと確証は得られない。

 しかし、期待が胸を突く。

 押し出されるように、一歩、一歩とミーシャは、その男のもとへ近づいていった。

 最初は徒歩だったそれが、やがて急ぎ足となり、駆け足となり、そしてあっという間に体力の限りの力走となる。

 そしてそのシルエットが、待っていた相手と同一人物ともう確信できる頃には、


「ヴァルカくん……!」


 その胸の中に飛び込んでいた。疲れが溜まっているのか、その勢いで一瞬よろめくも、ヴァルカくんは踏ん張って受け止める。

 そして――――。


「ただいま」


 と、ミーシャの身体を抱き締めた。それは優しくも、確かに愛おしく、強く。


「おかえり……ちゃんと、約束守ってくれた。さすが、ヴァ……――――〝ヴァルくん〟」


 勇気を出して、その名で呼んでみる。

 すると彼はそれを拒絶せず、優しくミーシャの名を呼んで返したのだった。


「ああ、〝ミーシャ〟が、俺の帰りを待ってくれていたからな」


 そう言ったヴァルカは、かつて学び舎で見せたような、柔らかい微笑みを浮かべる。

 それはミーシャが三年ぶりに見た、想い人の明るい笑顔であった――――。


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