表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君と、どら焼きが食べたくて。  作者: アトラモア


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/10

第8話 苦労話

-60代・70代-


「結局、家族全員で(はな)の面倒見てもらったのよ」

「そっかー、みんな支え合って生きてるんだね」


 華は、自分だけではなかったことに、ひどく安堵した。

完璧に見える母にも、大変な時期はあったのだと。


「そうよ。あなたも大変だったら、いつでも私たちを頼りなさい」

「もう頼ってるよ、ね?」


 華は、(かえで)を見てにこやかに微笑んだ。

楓も華の目を見て頬を上げて、柔らかに微笑む。


「はい、いつもありがとうございます」

「家族なんだから、当然よ。

楓さんも、疲れたら帰ってきていいのよ。ここはもう、貴方の家でもあるんだから」

「……ありがとうございます」


 少し涙ぐむ楓に、釣られて華も涙ぐむ。


「パパー、杏奈(あんな)!」

「ん、どうした、優司(ゆうじ)

「じいちゃんが呼んでる!」


 おいでおいでと手招きする龍登(りゅうと)

楓は華と結菜を見てから軽く頭を下げて、席を立つ。


「外します」

「ええ、楽しんで」

「杏奈も、行こ!」

「うん! おばあちゃん、編み物、明日やろうね!」

「ええ、分かったわ」


 ふんわりと笑う母を見て、思わず笑みを浮かべる華。


 笑う姿は、まさしく親子であった。


「ママは、今幸せ?」


 突然の娘の問いに、

結菜(ゆな)は少しだけ目を見開いたあと、優しい笑みで言う。


「幸せよ。龍登と結婚して、華と聡を授かって、2人も幸せそうに笑ってて。

これほど幸せなことはないわ」

「私も幸せ」


 華はすぐに、同じ言葉を繰り返す。

結菜は笑みを絶やさず、マグカップを包み込む。


「なら、よかったわ。

家族の幸せが、今の私の幸せだもの」

「そっか」


 少しだけ、遠くを見つめる華に、結菜は首を傾げる。


「何かあったの?」

「優司の学校でさ、ママ友会があるんだけど、みんな愚痴ばっか。

そりゃ、愚痴はあるだろうけど、私はそのノリについていけなくて」


 華は幸せだ。

けれど、周りも同じかと言えば、そうではない。


 だからって、自慢話をする空気でも、否定するわけにもいかなかった。


 華は、その状況に何とも言えない寂しさを感じていたのだ。


「ふふ」

「どうしたの?」

「わたしも昔、同じこと経験したなと思ってね」

「そうなんだ」


 ここでも、二人して同じ気苦労をしていたようだ。


「ママ友会と名乗る愚痴会の愚痴を、龍登に聞いてもらったの。

ふふ、すごく照れてて、面白かったわ」

 愚痴会の愚痴ということは、龍登を褒めることに繋がる。

華はその様子が目に浮かぶ。きっと、母は龍登の良いところを挙げ続けたのだろうと。


 そしてそれは、華にはない考えだった。


「たしかに……それはいいかも。

愚痴がないから愚痴なんて、おかしな話だけど。

それってようは、楓を褒めてることになるか」

「ふふ、そういうことね」


 華はなるほどなるほどと、いたずらっ子の笑みを浮かべる。


 まあでも、と言葉を続けた。


「そのおかげで、幸せ会っていうグループも発足できたわ」

「なあに、それは?」

「家族自慢ができる場所。みんなが幸せだってことを話す幸せ会」

「あら、素敵ね」


 結菜の言葉に、華は得意気に胸を張る。


「でしょ。本当に幸せな会よ。なんて言ったって、みんなが幸せに話すんだから」

「それはいいことね。人に恵まれるっていうのは、大事なことよ」


 華も、結菜も、龍登も、家族だけではなく、仕事も良縁に恵まれた。

だからこそこうして、自分の好きなことができている。


 恵まれていることを自覚できるのも、結菜の素敵な一面だ。


「そうだね。私って、恵まれてたんだなーって思うよ」

「ええ、お互い運が良かったのよ。

運だけで片付けられないこともあったけど、それを乗り越えてきた絆もある」

「例えば?」


 華は母の話に興味を示す様に、前のめりになる。


「お金と家族のこととかね。お互い、固定給がもらえる仕事ではなかったから。

けど、大丈夫だと思うことにしたのよ」

「そうなんだ。てっきり、そんな事ないかと」

「子どもに不安な姿を見せないのも、育児のうちよ」

「たしかに」


 二人は楽しそうに笑う。


「休憩、休憩っと」


 龍登が腰を叩いて、結菜の隣の椅子に座る。

すでに紅茶を持ってきているが、いつ入れたのだろう。


「あら、終わったの?」

「おう、大勝よ。まだまだ、現役だな」


 ニヤリと笑ってから、紅茶を一口飲む。


「さすが、ゲーム配信者の息子を育てたパパ」

「なんだ突然。恥ずかしいからやめてね」


 華は、照れる父の龍登から視線を外す。

三人の方を見てみれば、わいわいと盛り上がっていた。


「父さん、ボタン押して!」

「次のゲームはこうなるんだよ!」

「なるほど、これなら僕もできそう」


 3人とも、楽しそうで何よりである。


「楓とゲームは、ほとんどできないから、はしゃいでるわ」

「2人も楽しそうに話してたろ」

「えー、よくゲームやりながら聞こえたわね」

「見てたからな。結菜が楽しそうにしてるの」


 老夫婦になっても、ふたりは名前呼びだ。

なにより、龍登を見つめる結菜の目が優しいこと。


 将来なりたい姿がここにある。

それもまた、恵まれているということだろうと、華は思った。


「愛妻家ね」

「ああ、愛してるからな」

「ふふ、ありがと」


 恥ずかしげもなく愛の言葉を伝える龍登。距離の近いふたり。

子供の頃から、華が見ていた景色は、今も変わらずここにあった。


「二人はずっと仲良しね。喧嘩したことないの?」

「喧嘩というより、話し合いね。お互いが納得するまで話し合い」

「結菜は絶対折れなかったがな」


 母は強し、ということだろう。

恐らく、年が逆転しても、同じことになっていただろう。


 龍登の言葉に、結菜は当然のような態度を見せる。


「あら、やりたい事があるのに、仕事しかしない人生なんてダメに決まってるでしょ」

「まあ、そうだな。君がいなかったら、今の仕事には巡り合えてない。

ということは、華も生まれてないし、今の幸せな景色もなかった。結菜には足を向けて寝れないよ」

「それは、ママに大感謝だ」


 華の言葉に、そうだなと龍登が深く頷くと、結菜が即座に付け加える。


「行動した龍登にもね」


 ふたりは、ふたりだからこそ、幸せに暮らしているのだろう。


 華は、目じりを下げて、ふたりに告げた。


「そうだね、ありがとう、パパ、ママ」


 ふたりは、それはそれは嬉しいそうに笑顔を見せる。


「とはいえ、おかげで、28歳までギリギリの生活だったがな」

「そうね。でも、早くに花開いたからよかったの」

「えー、その話も聞きたい」


 華は、食いついた。


「今日は、昔話が多いわね」


 ふふと、結菜は笑みを浮かべる。


「そういう日があってもよくない?」

「それもそうね」


 結菜が特に話す素振りを見せないからか、龍登が紅茶を置く。


「今は順風満帆だが、当時は不安しかなかったよ」


 そうして、龍登はポツポツと語り始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ