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君と、どら焼きが食べたくて。  作者: アトラモア


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第7話 家族2

-20代・30代-


 おぎゃー、おぎゃー!


「ん……」


 結菜(ゆな)は赤ちゃん時代の(はな)のお世話で、酷くやつれていた。

何もかもが初めてで、大切な命を守るために心配が尽きない。


 何もかもに不安が付きまとっていた。


 結菜は龍登(りゅうと)がいない時間、華のお世話と家事を同時にこなす。

龍登は家にいる日と休みの日は家事と育児を手伝い、仕事もなるべく早く帰るようにしていた。


 それでも、一人でいるときの孤独感は、結菜の心を疲弊させていた。


「はな……ん?」


 目を覚まして、無理やり起きようとして違和感に気づく。旦那の龍登がいない。

いつもなら、同じタイミングに目が覚めて、龍登には寝てもらい、自分が夜泣きをあやしていた。


 今は育休中だからと、結菜は、華の夜泣きは自分が対応すると言い張ったのだ。

 しかし、隣にはすでに、龍登の姿はなかった。


「いない」


 おぎゃー、おぎゃー、おぎゃー


 龍登がいないとはいえ、赤ちゃんは泣き続けている。ふらふらの足で、部屋に向かう。


「あぁ、起きちゃったか」


 どうやら、龍登があやしていたようだ。

それすら気づかなかった結菜は、自分が疲れているのだと思い知る。


「ごめん、代わるよ」


 けれど、そんなことは言ってられない。

明日も龍登は仕事だ。なるべく仕事に支障がでないように、配慮していた。


「謝る必要ないよ。それより、結菜の方が寝た方がいい」

「でも……」


 結菜は素直には頷けなかった。

一度龍登が倒れてしまったことも、頭によぎったのだろう。


「お義母さんを呼んだっていい。

うちの母でもいいけど、あの人は適当だからなぁ」

「そんな、悪いよ……二人の時間邪魔しちゃ」


 やはり遠慮しがちだ。

結菜の母には、いつでも帰ってきていいと言われている。


 けれど、結菜は頑なに、頑張り続けた。

せっかくの二人きりの時間を、邪魔したくないのだろう。


 龍登は、隈ができて、今にも倒れそうな結菜に言う。


「無理しないって、2人で決めたろ。

仕事がないからって、毎日夜泣きのたびに起きてたら、おかしくなってくよ」


 龍登は赤ん坊の華を見つめてから、結菜を真剣な表情で見つめる。


「今まで、甘えててごめん」


 そして、謝罪の言葉を伝えた。

結菜は思わず目を見開いて、龍登のそばに寄る。


「だって、仕事が」

「いいんだよ。結菜に倒れられたと思うと気が気じゃないし。俺のほうが体力あるしさ」


 龍登は続けて、それに、と言葉を呟く。


「俺が倒れたとき、教えてくれたでしょ。

ふたりで頑張るって。君が教えてくれたんだ」

「……そうだね」


 龍登が倒れた時の事を思い出す。

確かにあの時、結菜は間違いなく、龍登にそう告げていた。


 けれど、結菜は今、一人で頑張ろうとしているのだ。


 過去に伝えた言葉が自分に返ってくる。

こんなになるとは思っていなかったが、結菜は龍登の言葉で我に返った。


「ふたりで頑張るのもいいけどさ。

手に負えなくなったら、それ以上の手を借りよ」


 一人で無理をしたからこそ、限界を知る龍登の言葉は、結菜の頑なだった心を自然と溶かしていく。


「うん、ありがと」

「こちらこそ、いつもありがとう」

「ふあ、ああ」


 泣いていたはずの華が、静かに寝静まる。

落ち着いた結菜の心と同期するように。


 ふたりは、華を見つめて笑いあう。


「とりあえず、俺の両親に聞いてみるよ」

「うん、お願い」


 相談した結果、龍登の母が赤ん坊の華を預かることに。


 翌日、龍登の母は、朝早くから龍登の家にすっ飛んできた。


 慌ただしい龍登の母が結菜に駆け寄る。

我が子のように接してくれる龍登の母に、結菜は自然と笑みがこぼれた。


「あらあらまあまあ、結菜ちゃん疲れきって……。

ちょっと、龍登! アンタ、ちゃんと育児と家事はしてるの!?」

 

 問い詰めるように龍登に言い寄る母親に、龍登は視線を逸らす。

今まで結菜に甘えていた姿がバレている。図星の龍登は、どうにか言葉を絞り出す。


「まぁ、できる限り」

「お義母さん、龍登君は本当に頑張ってくれてますから」


 素直じゃない龍登に、結菜がすかさずフォローを入れる。

家に帰ってくれば、龍登は育児と家事を一生懸命に頑張っていたからこそ、自然と言葉が出たのだろう。


 仕事が休みの日は、徹底して結菜を休ませるような働きかけもしていた。

 

 それでも、結菜は自分も何かと動き続けたのだ。


 しかし、龍登の母は、結菜の言葉に対しても、ズバッと言葉を投げかける。


「結菜ちゃん、駄目よ! ここで甘やかしたら、碌な親にならないわ! 

それに頑張るなんて当たり前なの! 自分の子なんだから!」


 龍登に厳しい母に、結菜は思わずたじろぐ。


(母は強し、だわ)


 龍登は、暴れん坊将軍の母をどうにか宥める。


「分かった、分かったから。

一週間頼むよ、母さん。夜には迎えに来るから」

「まったく、ちゃんとしなさいよ」

「分かったってば」


 仕事前から、小さく息が漏れる。


 そんな様子を見た結菜は、一刻も早く元気になろうと一人誓う。



 そんなこんなで、龍登の母に華を任せた結菜は、荷物をまとめて実家へと帰ってきた。


「ただいまー」

「結菜、おかえりー。あれ、華ちゃんは?」


 白髪交じりの優しい顔の結菜の母が、困惑したような顔を見せた。


「龍登のお義母さんとこ。

一週間、お昼面倒見てもらえることになったから」

「あら、そうなの。

じゃあ、次のお昼は私たちが面倒見るから連れていらっしゃい」


 母の言葉に、結菜は目を開いた。


「え、いいよ。一週間経ったら、帰るから」

「ダメよ。疲れが1週間で取れるわけないんだから。あーあー、酷い隈ね」


 龍登の母にも同じことを言われたと思った結菜は、ハッとして言葉を先に出した。


「言っておくけど、龍登はちゃんと手伝ってくれてるから!」


 両親に龍登を悪く言われたくない結菜は、大きな声で主張する。


「分かってるわよ、そんなこと」

「え?」


 けれど、結菜の予想に反して、結菜の母は意外な返答をした。


 その言葉に驚いて、結菜は思わず固まる。

結菜の様子を見た母親は、にっこりと笑うと、結菜に告げた。


「里帰りってのは、子供と母親がセットなの。

龍登さん1人にしても、問題ないくらい任せられるんでしょ」

「うん」

「本当に、いい旦那さんと巡り合えたわね」

「へへ、うん」


 自分の旦那を褒められて、ついつい嬉しくなって笑みを浮かべる。


 結菜の母親は、でも、と言葉を続けた。


「龍登さんも休ませないと、共倒れしちゃうわよ」

「そっか……たしかに」


 またしても、結菜はハッとした。

自分だけのことを考えていたが、思い返せば龍登も疲れていた事を思い出す。


(そうよね……ふたりとも、疲れてるんだ)


 龍登は一度、倒れているからこそ、自分の限界を知っている。

けれど、結菜は倒れた経験はない。だからこそ、自分のことで精一杯。


 龍登は自分のことで、文句を言った記憶もない。


 本当にいい人と巡り合えたことを、結菜は再確認したのであった。


「お茶淹れるから、座って待ってて」

「うん、ありがと」


 二人は移動して、リビングに入る。


「結菜」


 そこで待っていたのは、なぜか立っていた結菜の父親だ。

身長が高く、がっしりとした体格。無骨な表情の父である。


「あ、パパ、ただいま」

「おかえり。……華は?」

「え、龍登のお義母さんところ」

「……そうか、ほらコレ好きだろ」


 結菜の父親は、机の上を見た。

結菜も釣られて机を見ると、そこには、【あまたい焼き】と印刷された紙袋が置かれている。


「え、もしかして、カスタード生クリーム冷やしたい焼き! 買ってきてくれたんだ」

「ああ」


 カスタードたい焼きを冷やしてから生クリームを入れる風変わりなたい焼き。

結菜の昔からの大好物。近場にないから、滅多に買いに来れないが、実家に帰ると、いつも置いてあることを思いだす。


 結菜の父親は話下手なのか、あまり多くを話さない。


「みーちゃんと、俺のもある。結菜は二個だ」

「これは、食後にいただきましょう」

「うん!」


 どうやら、家族そろって好きなようだ。


 さすが、結菜の親子である。


「ありがとう、パパ!」

「ん」


 満足したのか、結菜の父親はアンティークのソファーに座る。


 結菜の父親の大きな背中が、なぜだか丸まっているように見えた。


「え、なんか落ち込んでない?」


 結菜がそういうと、結菜の母親は、ふふと笑った。


「楽しみにしてたみたいよ。

こうちゃん、あの顔で子供大好きなんだから。子育て時代は、楽させてもらったもんよ」

「え、そうなんだ」

「そういう意味では、こうちゃんと龍登さんは、似てるわね」

  

 母がそういうと、意外な顔で父を見つめる結菜。


「えー、似てるかな?」

「性格は似てるんじゃないかしら。

無理して体壊すところとかね。パパっ子のあなたが選んだ人だし、当然かな」

「まあ、そうかも。というか、ママも好きだよ、もちろん」

「知ってるわよ」

「へへ、そっか」


 結菜は、久しぶりに両親に甘える日々を過ごした。


 母の味と、二人の仲睦まじい姿を眺めながら、英気を養う。




 一方、龍登はというと。


「はなたーん、ばぁばでちゅよー」

「はなちゃん、じぃじもいるよ。じぃじも」

「きゃっきゃ!」


 孫をめちゃくちゃ可愛がる龍登家の両親。


 龍登が帰ってきても、一向に手放す気がない二人。

華もなんだかとても楽しそうにしていて、にっこにこの笑顔を見せていた。


「あの、夕飯もくったし、そろそろ帰りたいんだけど」


 龍登がそういうと、龍登の母が不満気に龍登を見てきた。


「えー、やっぱり泊まっていきなさいよ。夜泣きくらいどうってことないし」

「そうだぞ、龍。華ちゃんを独り占めにするな!」


 母の提案と、父の援護射撃。

独り占めするなという言葉に、龍登は頬を引きつかせる。


「いや、俺の子なんだけど……」

「「みんなの!」」


 龍登の両親の声が揃う。

 あ、これはもう無理だと察した龍登は、席を立つ。


「あ、はい。じゃあ、泊まるなら、服も持ってくるか。

余った食材も片づけたいし、持ってきていい?」

「そうしなさい。アンタも休まないと」

「そうだぞ、龍」

「え、なに、突然」


 朝から猛烈に責められた龍登は、母の言葉に意外そうに目を丸めた。


「朝の事、悪いとは思ってるけど、アタシは結菜ちゃんの味方だからね。

嫁姑問題は、息子のことを庇うから生まれるし。犠牲になって頂戴な」

「なるほど」

「今のままだと共倒れよ。

もう二度と、結菜ちゃんを不安にさせたくないしね」

「そうだぞ、龍」


 母の言葉に、父もうんうんと頷く。


「息子も、倒れそうだしね」

「うん、倒れるのは良くないぞ」

「そうだね」


 龍登は、いつも通りの二人を眺めて、目を細めて笑った。


「ありがとう、母さん、父さん」

「どういたしまして」

「ああ、どういたしまして」


 なんだかんだ、龍登に優しい両親であった。

 



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