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君と、どら焼きが食べたくて。  作者: アトラモア


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第4話 仕事

-60・70代-


「ただいまー」

「おじゃましまーす!」


 玄関から、がたがた音が響く。

大人一人、子供二人、そしてキャリーケースの音。


 綺麗に歳を重ねた母親と、その子供たち。

男の子はゲームに夢中で、女の子は靴を急いで脱いでいる。


「おー、おかえりー。(はな)優司(ゆうじ)杏奈(あんな)


 白髪オールバックイケオジの龍登(りゅうと)が、一人一人の名前を呼んで出迎える。


「じぃちゃん、ただいまー」


 10歳の優司がゲームを止めて手を挙げる。


「おじいちゃん!」

「おお、杏奈!」


 だっだっだっだ!

華の娘の杏奈が、龍登に向かって猛ダッシュ。


「ドーン!」

「おし、きた!」


 7歳の杏奈が勢いよく跳ねて抱きつくと、現役なのかと思うような力で、軽々と持ち上げた。


(娘よ、69歳のじいちゃんに、それは危険だ)


 華は内心で冷汗ものだ。

健康そうに見えるとはいえ、龍登はおじいちゃんなのだから。


 当然の心配と言えるだろう。


「おじいちゃん、凄い!」

「はは、そうだろう」


 杏奈を軽々と持ち上げて、片腕で抱っこする。

ぎゅっと龍登に抱き着く杏奈はきゃっきゃと楽しそうに笑った。


「ちょっと、腰悪くしないでよ」

「安心していいぞ。鍛え方が違う」


 孫片手にポージング。

孫の優司が目を輝かせている。


「相変わらず、力持ちだね!!」

「ふふーん、まあな」

「うちの旦那よりマッチョ」

「ちょっと、いつまで話してるの」

「おばあちゃん!」

「ばあちゃん!」

「おじいちゃん、降ろして!」

「おう、行ってこい」


 2人の孫が駆け寄る。

さすがに結菜(ゆな)には抱きつかずに周りでキャッキャする7歳児の杏奈。


(ここに来ると、本当に元気よね)


 華は内心で、そんなことを思いながら、キャリーケースを持ち上げる。


「持つぞ」

「ありがとう、パパ」


 当たり前のようにキャリーケースを持ち上げる父の龍登に、華は柔らかな笑みを見せる。


「あ、これ」

「おー、ふんわり堂」


 娘の華もいつもの紙袋を持ってきた。

ケーキではなくクリーム入りのどら焼きが、この家では定番だ。


 2人が好きだからと言いたいところだが、

華もクリーム入りのどら焼きが大好きなので、自分のためでもある。


「ここに帰ってくるとさー、食べたくなんのよねぇ」

「普段から食べればいいじゃないか」

「たまに、ここで食べるのがいいの」

「そうか」


 華の言葉に、龍登は嬉しそうに笑みを浮かべて呟いた。


 その後で、まあ、と言葉を続ける。


「きのう、食べちゃったけどな」

「えー、ちょっと我慢してよー」

「すまんすまん。1個だけだから」


 娘に叱られながら、リビングへ。

キャリケースの足を拭いてから、彼らが泊まる部屋へ持っていく。


「じいちゃん、勝負だ!」

「勝負!」


 龍登がリビングに戻ると、優司と杏奈が待ち構えていた。


「おー、さすがに早いな」


 テレビを見れば、すでに準備が完了していた。

同じゲーム機を持ってるだけあって対応が早い。


 2人から対戦を申し込まれた龍登爺は、意気揚々と孫2人に指を向ける。


「ふ、7歳と10歳相手か。

69(ロック)な爺を舐めるなよ」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべて、なぜかエアギターの構えを取り腕を振った。

ギターがそこにあれば、ジャーンと音を立てただろうが、エアーのため音もない。


 龍登は、エアギターを鳴らした後で、親指・人差し指・小指だけを立てながら、天井に掲げた。


「ロックンロール!!!」


 決めポーズである。


「ロックンロール!」

「ロール!」


 優司と杏奈も、それに便乗してポージング。


「よっしゃ、やっちゃうぞー!」

「今回は勝つ!」

「頑張る!」


 キャッキャ、キャッキャ。

はしゃぐ息子と娘を見ながら、華はテーブルで寛いでいた。


「本当に元気よねぇ」

「遊ぶために体力つけてるからね」

「はぁ……本当にすごいわ」

 

 机で伸びている娘の華に、コトンと物を置く。


「仕事に、家事育児は、大変よね」


 銀色に輝くアルコール飲料の缶。


「昼からなんて……あぁ、これだけでも帰ってくる理由になる」


 カシュッと2つの音が重なる。

トクトクとグラスに注ぐ黄金の液体。


「乾杯」


  2人は静かに酒を飲む。


「アタックアタックアターック!」

「うお、つえええええ!」

「おおおおお!」


 酒のつまみは、爺と孫のはしゃぐ声。

三人とも本気なので、見てる華もついつい笑みが零れる。


「仕事はどう?」


 華の母である結菜に、そう聞かれると、華は視線を結菜へと戻す。


「ぼちぼちかな~。結構、いい感じのお仕事もらえてるけど。

最前線からは子供ができてから早々に退いたけど、うまくやってる」

「すごいわねぇ。デザイナーなんて」

「ママの仕事の影響かな。いや、パパもか」


 どうやら、二人の影響から来たものらしい。


「あら、龍登も?」

「うん。2人が楽しそうに仕事してたから。自分の道を行こうって決めたの」

「あら、そうなの」

「うん」


 華は、家をぐるりと眺める。


 家に飾ってある数多の賞状。

ママのイラストと絵画。パパの書籍化した本。


 結菜はイラストレーターが本職だけど、絵画も趣味で描いているようだ。

学校に関する本もそこらに置いてあるので、臨時の教師もしていたのかもしれない。


「それに、家に親がいるっていうのも、当たり前の環境だったからさ」


 華は懐かしむように昔を思い出す。


 龍登はWEBライターで週に3回は会社に行ってたはずだった。

けれど、いつの間にか家にいてくれるようになり、家族の時間が増えたことを覚えている。


  華が小学生の頃、何の仕事をしてるのか龍登に聞いたことがあった。

けれど、龍登は恥ずかしがって教えてくれなかったのだ。渋々教えてくれたのは、本や記事に関する仕事というだけ。


 華が中学生になったころには、飾られていた本を読んだ。

華の母である結菜のイラストレーターとしての名前と、もう一人別の著者名。


 結菜のイラストじゃないライトノベルで、同じ名前の著者を見つけた。

父である龍登のだと気づいた時、華は衝撃を受けた。確かに毎日家にいると思ったけど、まさかそういう仕事とは、と。


 なぜ隠していたのかと聞くと、ライターの仕事はよかったけど、小説は頭の中を覗かれてるようで恥ずかしいとのこと。


 もちろん、作家名も教えてくれなかった

顔から火が出るからと。まぁ、残念ながら、母が父の本を買うのでバレバレではあったが。


 なにせ、ふたりの仕事の成果はあちこちに飾られているのだ。


 そこからなのだろう。

華も、両親のようになりたいと思ったのは。


「ふたりの作品が飾ってあるからかなー。

私も、そうなりたいって思ったのよ」


 華の記憶にある、ふたりの姿は楽しそうで、気付けば華も普通とは違う道に。


(まあ、そのせいもあって、結婚も少し遅くなったけど。

結果的には良かったかな。二人も生まれてくれたしね)


 この道を進んでよかったと、華はひとり、そう思うのであった。


「あなたがやりたい事ができていて良かったわ」

「うん、私も二人と同じになれた。

私のインタビュー本に、デザイン本も飾ってくれてるし、本当に同じにね」


 本棚には、華がインタビューされた雑誌も置いてある。

もちろん、ふたりが着てる服は、華がデザインしたものだ。


 華の言葉を聞いて、結菜はにっこりと笑った。


「そりゃ飾るわよ。

娘に関することだもの。服も華のデザインされたものばかりよ」

「親バカだね」

「自慢の娘ですから、親バカにもなるわ」


 会話が途切れたなと思ったら、結菜が「そうそう」と言って、また会話を始める。


「服、頻繁に送らなくていいのよ。ちゃんと自分たちで買うお金あるんだし」

「いいのよ。私が好きであげてるの。

まぁ、二人とも送る前に買うこともあるけどね」

「そりゃあ、買うわよ。娘の作品ですもの」

「そっか」


 華の口角が上がる。

華にとって自分がデザインした服は作品だ。

母親である結菜にも、同じように扱われるのが嬉しいのかもしれない。


 そんなことを考えると、ふと、華は思った。

ふたりがどうして今の仕事に就いたのか。今まで聞いたことがないようだ。


「ねぇ、ママとパパはどうしてクリエイター職になったの?」

「どうしてって、どうしたの突然」

「いや、そういうこと聞いたことなかったなって」


 ふふっと、結菜は笑った。


「両親の思い出話を聞き出すくらいには、余裕ができたようでよかったわ」

「あはは、まあね。色々大変だったけど、少し楽になったかも」


 親の仕事に関することは、小学生の発表会でした。

ただ、どうして、その仕事を選んだのかは、聞いたことがない。


 大人になってからも、聞いていないようだ。

デザイナーになりたいと思ってから、華の人生は慌ただしく、余裕がなかった。


 一時期は会社に入りつつも、自ら道に進むために独立。

デザイナーの仕事をこなして、恋もして、結婚して、子供を授かったのだ。


 息をするのも忘れるほどの忙しさ。

結菜に言われて、ようやく自分に余裕ができたのだと、華は思った。


「そうね、私は絵が好きだったからだけど、龍登は違うのよ」

「あー、そういえば、もともとは飲食店の店長って聞いたかも」

「そうなの。こっちの道に引きずり込んだのは私よ」

 

 こっちの道。

雇用契約ではなく、個人事業主ということだろう。


「そうなんだ」

「ええ。あれは、龍登が転職して、しばらくしてのことだったわ」


 結菜は楽しそうに、そして、懐かしそうに話を始める。


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