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君と、どら焼きが食べたくて。  作者: アトラモア


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2/8

第1話 どら焼き

-20代-


「ただいまー」


 黒いロングコートの似合う男性が、玄関から帰宅の声を出す。


「あれ、おかえりー。早かったんだね」


 部屋の奥から、一人の女性が姿を見せる。

時刻は20時過ぎ。女性は少し目を見開いて、帰宅の早い男性を見つめている。


 男は、靴を綺麗に揃えてから、持っていた物を持ち上げる。


 紙袋には【ふんわり堂】と品のある文字がプリントされていた。


 男は笑みを浮かべると、ただ一言。


「君と、どら焼きが食べたくて」


 彼女は、一瞬きょとんとする。


「ふふ、なにそれ」


 けれど、柔らかく温かそうなモコモコとしたパジャマ姿と同じような笑みを浮かべた。


「どら焼きのために、早く帰ってきたの? 

お友達との遊びの終わりを早めて」


 女性は男性の友好関係について口を挟む。

たしかに、20代後半の男にしては帰宅が早い。


 健全と言えば健全だが、少々驚きである。


 けれど、男性は女性に何を言われても、なんてことはない顔で答えた。


「言ったろ、今日は早いって。

高校時代の仲とはいえ、3カ月に1回は会ってるし、ゲームも週末にするからさ。

会って話すことも、そんなにないんだよ」

「面白い関係だね」


 様々な関係があるが、わりと仲はいいのだろう。

男は笑って【ふんわり堂】の紙袋をテーブルに置く。


「まぁ、そうかも。でも、カワとモリといると、居心地はいいんだよ。

酒も適度に、帰りたくなったら帰れる。遠慮なしの付き合いってやつだな」


 ロングコートを掛けながら、彼は満足そうに話す。


「たしかに、素敵かも。

えー、私も早く帰ろうかなぁ」


 彼女の帰りは、彼より遅いのだろう。

それはまぁ、当然と言えば当然だ。20時に帰ってくる若者の方が珍しいのだから。


 男性は、彼女の方へ近づいて頭を撫でた。

女性は目を細めて、幸せそうに撫でられている。


結菜(ゆな)は結菜の人付き合いがあるだろ。俺に合わせなくていいよ」

「ふふ、うん。ありがと、龍登(りゅうと)


 結菜は、龍登がそういうのを分かっていたような反応だ。


「そんなことよりさ、これ早く食べよう」


 そそくさと大手ファッションブランドの部屋着に着替えた龍登は、どら焼きの紙袋を持ち上げた。


「うん! 中身はもちろん」

「クリームあんこ」


 龍登がそういえば、肘でツンツンしながら、結菜は満足そうに笑みを浮かべる。


「ふふん、分かってるね、ちみ」

「だろ。飲み物も入れようか」

「うん!」


 邪道と呼ばれるクリーム入りのどら焼きを食べる前に、飲み物を入れる。

龍登は慣れた手つきで、パックの紅茶とインスタント珈琲を手際よく淹れる。


 紅茶と珈琲の香りが混じり合う、1LDKのリビング。


 龍登は、出来上がった飲み物を、2人掛けのテーブルに置いた。


「はい、これ」

「いつもありがと!

龍登が入れた珈琲は美味しいんだよね」


 そういって、結菜は、鼻歌が聞こえてきそうな表情で珈琲を一口飲む。


「そう? インスタントだし、味は変わらないと思うけど」


 龍登にとっては、誰が入れても一緒の味になるという。


「そうなんだけどさ。やっぱり自分で入れるより、龍登に淹れてもらうほうが美味しい。

やっぱりあれかな、龍登に淹れてもらってるからかな」


 にやりと笑う結菜に、龍登は数回瞬きをしてから視線を落とす。


「なんだそりゃ」

 

 呆れたように答える割には、どこか嬉しそうで、声でも口角が上がっていることが分かる。

照れ隠しをする、ちょっと素直じゃない龍登ではあるが、結菜は龍登の答えを気にしていない。

 

 なにせ、ニマニマと笑っているから。

きっと、結菜はすでに、龍登の性格を分かっているのだろう。


 紅茶を一口飲んで、顔を上げれば、嬉しさを隠しきれていない結菜の顔が飛び込んできた。


 龍登は少しだけ視線を逸らして、どら焼きのほうに目を向ける。

 

「あー、早く食べようよ」

「ふふ、そうだね」


 結菜は満足したのか、龍登が持ち上げたふんわり堂の紙袋を手に取った。

紙袋に手を入れて、どら焼きを出す。出てきたどら焼きは、普通のどら焼きよりも、1.5倍膨らんでいる。


 クリーム入りだからだろうが、なかなかの大きさだ。


 結菜は、一つを自分に、もう一つを龍登に渡す。


 丁寧に小袋に入ったどら焼き。

クリームがなるべく袋に付かないように慎重に取り出す結菜を見て、龍登はバレないように笑みを浮かべる。


「いただきまーす」

「いただきます」


 挨拶を済ませて、さっそくかぶりつく。

口いっぱいに広がる生地とあんこ、そしてクリーム。


 何とも贅沢で、なんとも満たされる味が、口いっぱいに広がる。


「んー、すっごくおいしい!」

「あまさ控えめどら焼きの中に、たっぷりの甘い生クリーム……うまい」


 2人はゆっくりと食べるつもりだったが、ペロリと一個目をたいらげる。

珈琲と紅茶を飲まずして、完食してしまうくらいには、ぺろりと食べていた。


「やっぱり一個だとペロリだね」

「だよね。まあ、でも、もう一個あるから」

「さすが、龍登。わかってるねー」


 2人は幸せそうな笑みを浮かべ、

2個目のクリーム入りどら焼きを頬張るのであった。


第二話3/1718:20

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