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3暮「天才」

最後は、二人の天才と、一人の自由人の邂逅です。

夕暮れ時の不思議な公園。そこには、歴史の教科書から抜け出してきたような二人の男と、おじさんがいた。

「いいかね。地球が動いていることは、私の望遠鏡が証明した揺るぎない事実なのだ」 ガリレオは、地動説という「唯一の正解」を譲らない。

「ガリレオ先生、そう熱くならないでください」 アインシュタインがパイプの煙をくゆらせながら割って入る。 「私の理論では、止まっているものなど存在しません。地球が回っているのか、宇宙が回っているのか……それは観測者の立ち位置が決めること。つまり、物理学的には『どっちでも良い』のですよ」

その時、ベンチで居眠りをしていたおじさんが、カッと目を見開いて立ち上がった。

「どっちでも良くないのだ! 全然なってないのだ!」

二人の天才が驚いて振り向くと、おじさんは胸を張って言い放った。

「いいか、ワシはキタからキタのだ。だからニシは右なのだ!」

ガリレオは絶句した。「キタから来たから、右がニシ……? なんだそのデタラメな方位は!」

しかし、アインシュタインの目は逆に輝き始めた。「……なるほど。おじさんは今、自分自身を宇宙の『絶対的な原点』に設定したわけですね。自分が歩いてきた方向を『北』と定義すれば、そこを基準にすべての方位は再構築される……」

おじさんは止まらない。 「そうなのだ! ワシが決めたからには、ニシから登ったおひさまはヒガシへ沈むのだ。太陽の動きがワシの理屈と合わないなら、太陽の方が間違っているのだ。これでいいのだ!」

ガリレオは頭を抱えた。「理論も観測もあったものじゃない。そんなことが許されるのか?」

「ガリレオ先生」アインシュタインが苦笑しながら肩を叩いた。「我々は宇宙のルールを解き明かそうとしましたが、このおじさんは宇宙にルールを押し付けてしまった。ある意味、観測者が宇宙を創造するという量子力学の極致ですよ」

おじさんは満足げに鼻を鳴らすと、自分でお決めた「ニシ」の方角へ、千鳥足で去っていった。

「……ワシが来た方向がキタ、か」 ガリレオは、手元の望遠鏡をそっと仕舞った。 「あのおじさんの世界では、地球が回っているかどうかなんて、確かにどうでも良いことのようだな」

二人は、おじさんが強引に書き換えた夕焼け空を眺めながら、妙に納得した気持ちで「これでいいのだ」と呟き合った。


全肯定。理屈を超えた先にある、ある種の救いを感じていただければ。


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