転生したら左手だった件
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「おい!ミネタ!ここはお前が通っていい道じゃねーんだよ!」
後ろからそんな声が聞こえて僕は振り向いた。普通の晴れた日の夏の通学路。僕は朝が早いからこんな風に名前を呼ばれるのは稀だった。
そこにいたのはクラスメイトの佐久間くんだった。容姿端麗、成績優秀、部活のバスケ部も全国区のうちの高校にスポーツ推薦で入ったんだからきっとすごいんだろうと思う。誰からも愛される人気者、だけど僕にとっては違った。
「なに?佐久間くん、それに僕の名前はミネタじゃなくて…蓑田だよ…」
「名前なんてはどーでもいいんだよ、お前、自分の立場わかってんのか?裏口の方のきたねー道歩けって言ったよな?忘れた?」
「でもあそこは人が歩けるような道じゃないよ…」
裏口の道とはゴミ捨て用の裏門のことで、その隣を走る用水路にはそこに住む住人たちが勝手口から出るための狭い小路がある。ただ、それは用向きにつくられたもので、実際人が通れるほど十分なものではなかった。
「うるせーよ、そこを俺が通れって行ったら通るのがお前!おっけー?」
「……うん…、わかった」
言葉は通じないと思った。それ以上なにか言われないように目を伏せて早足で校門に向かった。途中二三度、佐久間くんはぼくにちょっかいを出してきたけど、部活の朝練だろうか、時間をスマホで確認すると走って行ってしまった。
教室に入ると当然誰もいなかった。始業の1時間も前に来れば誰もいないのは分かっていたし、敢えてその時間を選んでいた。
今年の五月、つまり入学一ヶ月目まではぼくも周りの人たちと同じように普通の高校生だった。