【おまけ】冷徹はいい夢を見る
……ここは?
あの暗い森かと見回すも、見慣れた光景にホッとする。
ああ、なんだ、家か。
見慣れた屋敷の、見慣れた庭に、見慣れた人達が集まっている。
祖父母や母、ナガコや家令をはじめとする使用人達、共に戦い命を落とした兵達、父とかつての師匠、おまけにケンペリ王子。
そして……
隣に座る愛しい姿にホッとする。
幸せそうに酒を飲む、赤と黄色とピンクのへんてこな身体を抱き寄せた。
皆が自由にグラスを持ち、自由に酒を注ぎ、自由に食べて笑い合う。そこには敵も味方も、身分も何もない。
師匠に殺された父も、父を殺めた師匠も、その師匠を討った自分も。
家族だと信じていたかつてのように、笑顔でグラスを交わしている。
温かいな……こんなに温かいのはいつぶりだろう。
ふと気付けば、皆頭に角を生やし、虎模様の服で温泉に浸かっている。王宮のよりもずっと広い、湖みたいな温泉だ。
あのとんでもなく可愛いオニも、『ダーリン♡』と言いながら腕に寄り添ってくる。
うん……ここは天国だ。
オニばかりなのに、間違いなく天国だ。
しばらくすると、可愛いオニがバンバン♪ とへんてこな歌を歌い出す。それに合わせて、皆も大合唱を始める。
こんな歌聴いたこともないと首を傾げつつ、心地好いメロディーに身体が揺れてしまう。
……『ノボリベツノユ』って何だろう。
まあいいか。
父と師匠が手を振りながら、目の前をすいすいと泳いでいく。
楽しそうなその姿に、仕方ないなあと笑いながら、手を振り返した。
「風邪引くなよ!」
────心地好い瞼をとろんと開ければ、高い丸窓が自分を見下ろしている。
空と月の色から、四時前といったところだろうか。
いい夢だったな……と隣を見れば、ここにも可愛いオニが。腕の中の愛しい温もりに、どうりでと笑みがこぼれる。
起きる前に発たなくては。
小さな額に唇を落とし、起こさぬようにそっと立ち上がる。
「……歯磨けよ。風呂にも入れ」
もう一度だけ唇を落とすと、振り返らないようにして離れを出た。
夜と朝の境目に立つ冷徹。
オニ達と共にバンバン口ずさみながら、剣の柄を軽快に握り締め、暗い戦地へと向かって行った。