6 悪女は冷徹騎士(悪魔)に立ち向かう
イッタイナニガキニクワナインダ
酔っているせいか、いまいち理解出来ない。
とりあえず「ナニモ?」と返してみると、一段と冷たい……氷の塊みたいな声に殴られる。
「用意した部屋では寝られないと、あてつけがましく野宿をしているそうだな。食事も口に合わないと拒んだ上に、毎日食料庫に忍び込み、大量に盗みを働いているとか。……来客用の貴重なワインまで」
ヨウイシタヘヤデハ……ショクジモコバミ……ヌスミヲハタライテ……ワインマデ……
ダメだ。何も入って来ない。
答えられないでいると、酒で火照った顔に強烈なブリザードが突き刺さった。
「そんなにここが気に食わないなら、今すぐにでも荷物をまとめて出て行け」
ソンナニココガキニクワナイナラ……にもつをまとめて……出て行け?
急速に酔いが冷めていく。
シャキッと身体を起こすと、見た目の割に筋肉質な柱をべシッと叩きながら言った。
「あのね、私はね、絶対に出れ行かない! ハイジのベッドは最高だし、ご飯も……ひっく、酒も毎日美味しい! だから、絶っっっ対に出れ行かない!!」
「……何だと?」
とにかくこの綺麗なCGが、私に対して好意的でないことだけは分かる。瓶に直接口を付け、残りをぐいっと飲み干すと、拳で口を拭いながら立ち上がった。
くうっ……サツキもメイリーンも、どうしてこんなにチビなの?
食料庫から拝借した椅子兼テーブル代わりの木箱を引きずって来ると、CGの前に置きよいしょと登る。
ふう、まだ微妙に低いけど、見下ろされることはなくなったわ。
「ところであんら、私が誰だか知っれるの?」
「……誰だ?」
「冷徹騎士の奥さん! この家で二番目に偉い人なんだから」
腰に手を当てフンとふんぞり返るも、本当にひっくり返りそうになり、手をぐるぐると回してバランスを取る。何とか元に戻り汗を拭ったその時、急激な気温の低下に背筋が震えた。
寒っ……何これ、初夏の陽気だったはずなのに。
むき出しの二の腕を擦っていると、その冷気の発生源に気付き、ひいっと叫びそうになった。
氷のひびにも負けない、立派な青筋をピシピシと立てたCGは、薄氷みたいな唇をふっと歪ませる。
「そうだな……お前は確かにこの家で二番目だ。……俺が一番なんだから」
オレガイチバン……いちばん……一番。
全身が凍りつく。
「あの、もしかしれ、あんらが冷徹騎士?」
「……ああ、どうやらそうらしいな。その呼び名にふさわしく、今すぐにでもお前を放り出したい所だが……ひとまず部屋へ入れ。処分はそれからだ」
…………部屋!!
木箱からぴょんと飛び下りると、自分でも信じられない速さで、寝室までダッシュする。柱にしがみつくと、私を天国から引きずり落とそうとする悪魔に向かい叫んだ。
「いやだ! 絶っっっ対に部屋には入らない! 絶っっっ対に掃除なんかしらくない!」
長い足ですぐにやって来た悪魔は、「掃除?」と首を傾げる。
「掃除も料理もしらくない! もう働きらくないの!」
悪魔はますます首を傾げるも、次第に顔が険しくなっていく。
「とにかくここにいる! 外で暮らす! お外が一番!」
「……うるさい。とにかく一旦部屋へ入れ!」
「いやだ! いやだあ!」
「黙れ! ガゼボを草だらけにしやがって!」
「草じゃない! ハイジのベッドだもん!」
コアラみたいにしがみついて抵抗する私を、悪魔はめりっと引き剥がす。肩に担ぐと、暴れる私の尻を容赦なく叩きながら歩き出した。
しばらくすると、悪魔はふと足を止め、くんくんと息を吸いながら言う。
「お前……風呂は?」