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【おまけ】ラーメンの行方

 

 夕食の席で、悪女が突然倒れたあの後、屋敷はかなり大変なことになっていた。

 王子の護衛兵が、誰かが毒を盛ったのではと騒ぎ出し、調理と給仕に携わった使用人達は、半拘束状態に。

 医師が到着するなり、倒れた悪女ではなく王子を先に診察させようとして、冷徹が切れかける。

 王子が「夫人を先に」と命じたことで、何とか冷徹の怒りは収まったが……そうでなければ、護衛は既にこの世に存在していなかっただろう。


 結局、悪女は精神的なものと診断され、王子も健康そのもの。

 使用人達は無事に拘束を解かれ、やれやれと食堂の片付けへ取り掛かったのだった。



 皆、騎士団長に仕える優秀な使用人達。

 一国の王子が滞在しているのだから、緊張感を持って仕事をしているし、このようなことで厳戒体勢を敷かれたとしても特段驚くことではない。


 そんな彼らが恐怖を抱いたのは、威圧感たっぷりの護衛兵よりも、真っ青な顔で悪女を抱き上げ、迷わず自分の寝室へと運ぶ主人の姿だった。

 普段入室を許可されているのは掃除の時だけ。それも、クニコを含めたった三人の古参の使用人だけという、主の超プライベートスペース。そこに他人(一応妻だが)を寝かせるなど、到底信じられなかった。

 更には、冷静で冷徹であるはずの主が誰よりも取り乱し、危うく王子の護衛を殺めるという大罪を犯しかけるところだったのだ。


 主人にとって悪女は、『本当の妻』ではないが『大切』で『特別』な女性。

 使用人達は、そのように認識し始めていた。




 さて、仕事を終えた使用人達が、いそいそと厨房へ集まってくる。

 お目当てはもちろん、あの騒動で大量に残った夕食。王子がいる為、今夜は特に品数が多く、厨房のテーブルをズラリと埋め尽くしていた。

 さすがに酒は飲めないが、果実水と取り皿を手に、ビュッフェスタイルの拘束お疲れ様会が始まった。


 空っぽの腹に、瞬く間に消えていく料理達。その中で、あのぐるぐるの怪しげなスープが三つ、手つかずの状態で寂しげに残っていた。


「……どれ、私が食べてみようか」


 空気を読んで、それに手を伸ばすシェフ。

 王子の命とはいえ作った責任があるし、食べ物を粗末にすることは彼の信条に反するからだ。


 とはいえ、スープを吸ってぶにょぶにょに膨らんだそれはいかにも不味そうで。シェフはそれらを鍋に戻し、スープを足してもう一度温め直すことにした。

 黄味がかったパスタ? に、おそらく鶏ベースのスープ。王子のレシピ通りに、粉末を湯に溶かして煮込んでみたが、そこまで美味しいとは思えず。こっそり鰹出汁を足してしまったのだ。

 具も珍しいものばかりだった。特にこの白にピンクのぐるぐるしたヤツ。一見菓子のようにも見えるそれが、怪しげな雰囲気を一層引き立てていた。


 スープを味見し、よしと頷くと、カップによそいふうと息を吹きかける。


(……うん。伸びたパスタも、スープを絡めて味わえば悪くない。作り立てなら、きっともっと美味しいのだろう。このぐるぐるは……魚介類のすり身だろうか。特に味はないが、もちもちした食感が楽しいな。この茶色いキノコみたいなヤツは……)


 ふうふうツルツルと味わい続けるシェフに、使用人達はごくりと喉を鳴らす。

 なんともクセになるその不思議な味に、一人、二人……と挑んでいく。

 こうして無事に、怪しい鍋は空になった。



(味噌、バター、塩……色々アレンジが楽しめそうだ。パスタとスープとぐるぐるの作り方を調べて、いつか奥様の為に作って差し上げよう。オミオツケがお好きだから、きっと喜ばれるだろうな)



※再び屋敷に臭いが充満してしまいましたが、この頃サツキは二回目の気絶をしていたので気付きませんでした(๑◡๑)

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― 新着の感想 ―
冷徹さんが子供を守る母熊の様に!? それはもうギラギラの目付きで医師や護衛を睨みつけていたんだろうなあ。 さて、シェフが作るラーメンをサツキが食べることはあるのかな?
ここまで読ませていただきました。冷徹の心に火をつけ、かえって軟禁されてしまった主人公。それでも脱走を試みて、その後がとても気になります…!冷徹が妻以外の作ったおみおつけに違いを感じるところも印象的でし…
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