48 悪女はついに軟禁される
こんなこと……って、何? と訊く前に、苛立たしげに問われる。
「こうやって、元夫にベタベタくっついていたのかと訊いているんだよ」
「ベタベタ? うーん、どうかしら。店が忙しくてそれどころじゃなかったけど、まあ夫婦だからそれなりのことは……」
「うるさい! それ以上喋るな!」
口をムギュッとつままれ、続きを封じられる。
さっきから何なのよ! 自分から訊いといて、態度悪いったらありゃしない!
文句を言ってやろうともごもご暴れる私を、冷徹はぽふんとベッドに押し倒す。ひらりと上に股がり、長い四肢で簡単に押さえつけられてしまった。
口は解放されたのに……
ギラギラ燃える青い目にゾクリとし、何も発せなくなる。
え、怒って……る?
理由が分からないままに、険しい顔を近付けられてしまう。
「……こんな風に? ベッドの上でじゃれ合ったりもしたのか?」
「ううん、ベッドじゃなくてふと」
「黙れ」
────どうしよう。
コレ、噛んだ方がいいの?
それとも殴る?
器用な唇に喰まれ、全身からどんどん力が抜けていく。
純潔のくせに……何でこんなに深いのよ。
冷徹のくせに……何でこんなに熱いのよ。
さすがヒー……ロー…………
暴走する鬼を止めることが出来ず、私はもう一度意識を手放した。
最後まで唇を熔かされ、搔き乱されたまま。
♡- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -ഒ˖°
朝の気配と微かな物音に瞼を開ければ、桶を持ったナガディアと目が合った。
「おはようございます奥様。ご気分はいかがですか?」
カーテン越しの陽に照らされる室内。茶と黒を基調とした落ち着いた色彩を見て、私はハッと飛び起きる。
「ここ、私の部屋じゃない」
「はい。こちらはご主人様の寝室です。お食事中に倒れられた奥様を、ご主人様がこちらへ運ばれたのですよ」
「……私はずっとここで寝ていたの?」
「はい」
夕べはラーメンやら前世やら……キス……で必死だったから。全然気付かなかったわ。
まだ熱が灯っている唇に手を当てる。
「ご主人様は?」
「別の部屋でお休みになられました。先ほど起きて、王子殿下とトレーニングルームへ向かわれたかと」
「……そう」
服のボタンやリボンは緩められてはいるものの、何かがあった形跡も感覚もない。
そうか、彼は自分で鬼を抑えたのね。偉いわ。
喜ぶべきなのに。
もしも鬼が暴走していたら……いっそ暴走してしまえば……と、考えてしまう自分がいた。
いやいや、愛がないのにそんなことをしたら、純潔な冷徹はものすごく後悔するわ。キスだけだって、今頃酷く落ち込んでいるかもしれない。
あっ! 第一私、歯磨きしていないじゃない。お水は少し飲んだけど。
ええと、確か気を失う直前に食べたのは…………ちりめんじゃこのサラダだ。
うえ、生臭そう。
あの人、魚嫌いなのに。あんなに濃厚に味わったりして、平気だったのかな。
田楽味噌味の器用な唇を思い出し、ボッと顔が燃え上がる。
熱を冷ます為、冷たい水とハーブで歯を念入りに磨く私。言われるがままに医師の診察を受け、何ともないことを確認されると、朝風呂へ沈められる。
湯から上がって身支度を整えた頃には、ちょうど朝食の時間が迫っていた。王子様を待たせちゃ悪いわよねと急いで食堂へ向かおうとするが、ナガディアに止められてしまう。
「奥様。本日はお部屋で朝食をお召し上がりください」
「へ? 体調ならもう何ともないけど」
「ご主人様のご命令なのです。“ 好きなだけ酒を飲んで構わないから、今日は部屋から一歩も外へ出るな ” と」
…………何で?