5 悪女は冷徹騎士(夫)に会う
「ありがとう! ありがとうっ!」
少年の手を取ってぶんぶん振り、抱き締め、またぶんぶん振ると、ようやく満足する。
ふかふかの干し草クッションを触りながら、「ねえ、寝れみれもいい?」と訊くと、こくんと頷いてくれた。
布団代わりの服を敷くと、その上にそっとダイブする。
ぽふんっ…………
し・あ・わ・せ♡
柔らかいし、温かいし、お陽さまの匂いまでする。あまりの心地好さに、睡魔が一気に押し寄せて……
ああ……このまま本格的に寝ちゃいたい……けど……
頭『ダメよ、サツキ! 宴会の後片付けが残っているじゃない! ご馳走の残りは虫が来ないようにちゃんとまとめて。グラスも瓶も、拾ってきちんと洗うのよ』
心『うっせえなあ。異世界に来てまで、片付けだの洗い物だのせっつかれたくねえし。別に起きてからのんびりやればいいだろ?』
頭『ダメ! こんなに酔っ払ってるんじゃ、いつ起きるか分からないでしょ?』
心『うるせえ! 好きなだけ寝かせろ! お前がそんなだから姑と小姑にこき使われるんだ!』
頭『なっ、なんですって!?』
頭と心の醜い争い。決着が付かないまま、身体はむくっと起き上がり、勝手にシャカシャカと動き回る。
カーテシーも出来ないくらいふわふわなのに……主婦の悲しい性ね。
宴会の後片付けを済ませ、ガゼボに戻ると、まだ少年が立っている。慌てて近寄った私に、彼は荷車をチラリと見ながら言った。
「あの、残りの干し草はどうしましょうか? 要らなければ持って帰りますけど」
「ああ! ごめんなさいね。せっかくだから、全部もらうわ。落ちれも痛くないように、ベッドの下へ全部置いれくれる?」
「……分かりました」
ベッドの下までふかふかにしてくれた少年を、私はもう一度抱き締め、お礼にまだ手を付けていない果物を全部渡した。
◇◇◇
それから毎日、私は自由に過ごした。
起きたい時に起きて、寝たい時に寝る。食べて飲んで、歌ったり踊ったり。食料を調達する時とトイレへ行く時以外は、屋敷に入ることはなく、ほとんどを庭で過ごした。
たまにあの少年が、遠くからひょこっとこちらを覗いているのが見えて。おいでと手招きしてみるけど、頭を下げてすぐにどこかへ行ってしまう。
また果物をあげたかったのになあ。
……仕方ないか、ぼっちの悪女だもんね。
嫁いでから一週間、ちょっとだけ誰かと話したくなってきた頃、突如その願いは叶った。
昼からご機嫌で三本目の瓶を空にしようとしていた時、ゆらゆら踊る視界に、ピカピカの黒い何かが現れたのだ。
……何だこれ。
つついてみるも微動だにしない。よくよく見れば、そこから二本の長い柱が生えており、更にその上には、CGみたいに綺麗な顔がくっついていた。
ほええ……異世界から天国に来たのかなあ?
柱を揉みながら神々しい顔を拝んでいると、不意に美しい唇が開き、地獄の底みたいに冷たい声が放たれた。
「……お前、一体何が気に食わないんだ?」