表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/72

4 悪女は馬と喧嘩する

 

「……ねえ。これ、ちょっと分けれくれない?」


 ヒン!


「いいじゃない。そんなに食べらら太るわよ?」


 ヒィーン!


 この黒い馬……目つきがキミにそっくりね。干し草に手を伸ばす私を睨み、鼻息荒く威嚇してくる。他に大人しそうなコもいるけど、どうしてもこの馬には負けたくない。

 お互い一歩も譲れず、膠着状態が続いていた為、誰かが馬小屋に入って来たのに気付かなかった。


「お前、馬泥棒か?」


 振り向けば、そこには日本で言う中学生くらいの少年が、訝しげな顔で立っている。服装からして、多分馬の世話係だろう。

 怪しまれては困る。私は立ち上がり、威厳たっぷりに背筋を伸ばし……たいけどふわふわする。へへっ。


「馬なんれ興味はないわ。干し草が欲しいだけ」

「……なんで?」

「ベッドにしらいの。ハイジのベッド。知っれる? ……ひっく」


 少年はますます訝しげな顔で腕を組む。


「……誰?」


 ああ、そうね、まずはそこよね。


わらしわらしはねえ、冷徹騎士の奥さん! 昨日嫁いで来らのよ~」

「……ご主人様の?」

「そうそう。この家でねえ……ひっく。二番目に偉い人なんらから。仲良くしれね」


 ほら、このドレスを見て。妹のお古だけど貴族令嬢っぽいでしょ? と、スカートをつまんでくるりと回ってみせる。カーテシーも披露したいところだけど、今はちょっと難しそう。

 そんな私の頭から爪先までをジロジロ見ると、少年は少し顔を和らげ、組んでいた腕をほどいた。


「……ナルトはご主人様に似て気難しいから、あんまり近寄らない方がいい。干し草なら、あっちに沢山ありますよ」


 おっ、信じてくれたみたい!

 まだブルブル怒っているメンマをキッと睨みつけると、少年の後を付いて行った。




「これだけあれば足りますか?」


 案内された場所には、見るからにふかふかの干し草が沢山詰んである。

 うわあ! うわあ! 今すぐにでも飛び込みたい!


「じゃあ、もらっれいくわね」と腕に抱えられるだけ抱えると、少年は冷静に問う。


「よく分からないけど、ベッドにするんでしょう? それだけで足りるんですか?」


 ……足りるかな?


 訊いたくせに答えも聞かず、少年はさっさと荷車を用意する。立て掛けてあったフォークを手にし、慣れた手つきで干し草を山盛りに積むと、汗を拭いながら言った。


「どこに運ぶんですか?」




 少年に寝室を案内し、「ここをベッドにしらいの」とベンチを叩けば、円らな目を見張られる。


「……ガゼボで寝るんですか?」

「そうよ。星は綺麗なんらけど、背中がいらくれ。でも今日は、これのお蔭でぐっすり眠れそうだわ」


 柔らかな干し草に顔を埋め、幸せに浸る。


 ────どのくらいそうしていただろうか。背中をつつかれ顔を上げると、少年が大きな麻袋を手に立っていた。


 寝て……た?


 涎を拭う私をさりげなく荷車からどかすと、少年は何も言わずに、袋に干し草を詰めていく。

 あっ、もしかして!

 私も手伝い三袋分を一杯にすると、一緒にベンチの上に並べていった。


「麻だからザラザラしてるけど、上に何か布をかければ……」


 うっ、うわあああい!!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木山花名美の作品
新着更新順
総合ポイントの高い順
*バナー作成 コロン様
― 新着の感想 ―
酔っ払い継続中。 流石は酔っ払い。馬とやり合うぜ。
いや! これはある意味、かわいい! お世話したくなってしまいます。。(^^)
少年、いい子ですね。 本当に奥様だと信じたかどうかは不明ですが、初対面の酔っぱらった女性にこんなに親切にしてくれて。 この屋敷で味方になってくれそうな子に出会えて良かったです。 藁のベッド、天日で良…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ