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29 悪女はご褒美に踊らされる

 

 その言葉に、私の中のメイリーンが覚醒する。

 ジョフェズビブァッファ公爵とジャフェブヒジョッハ侯爵の違いを超特急で正確に叩き込むと、クニコと共にレッスン会場の広間へとルンルンで向かった。


 サツキの記憶が目覚めてからというもの、食べて飲んでゴロゴロすることしか興味がなかった私。けれど黒鬼チョーさんへの恋心を自覚してからは、異世界人達……特に男性の整いすぎた容姿が、やたらと目に付くようになった。


『本番で踊りやすいように、ご主人様と背格好が似ている講師を揃えました』


 とクニコが手配した彼らは、うちの黒鬼チョーさん程ではないけれど、選りすぐりの美丈夫ばかり。モデル級のお顔に加え、スタイルも筋肉も素晴らしく、思わずグッジョブ♡ と叫んでしまった。


 そしてなんと、難しいステップを覚えるなどのノルマを達成したら、身体で私の欲望に応えてくれるというご褒美付き♡

 モリモリの上腕二頭筋にぶら下げてもらったり、ムキムキの背筋におんぶしてもらったり。それを励みに練習している内に、自然と上手く踊れるようになってきた。


 今日は胸筋を触らせてもらおうかな……それとも腕相撲……いやいや、やっぱりターミネーターのあの登場シーンを半裸で……むふっ♡

 今日のご褒美が決まらないという楽しい悩みを抱えたまま、ホールのドアを開けた私。そこに立っていた人物に、一瞬部屋を間違えたかと入口を振り返るも、間違いなくいつものホールだ。


「遅い」


 ぶすっとした顔でそう言い放つのは、いつもの愛想の良い講師達ではなく、黒鬼チョーさんだった。


「……何でご主人様が? いつもの筋に……いえ、ダンスの先生方は?」

「今日付けで全員解雇した」

「かいっ……どっ、どうして!?」


 黒鬼チョーさんはこちらへ近付くと、腕を組み、冷たい目で私を見下ろす。


「……お前、講師達に何をした」


 …………?


「何も」と答えると、黒鬼チョーさんは、はああと盛大なため息を吐く。


「講師の腹筋を生で触っただろう。強引にシャツを脱がせ、そのいやらしい手で、ペタペタペタペタと。もう耐えられないとクレームがあった」


「それはっ……ご褒美だったのよ! 確かに生で触ったけど、ペタペタじゃなくてツンツンくらいよ? ちゃんと同意も得たし。それに私、強引に脱がせたりなんかしないわ! だって先生が脱ぐ所から観たいんだもの。長い指でクラヴァットをしゅるっとほどいてえ、ボタンを一つずつ外してえ……へへ♡」


 その答えの何がいけなかったのか。急激に強まる冷気に、背筋がぞくりとする。

 恐る恐る見上げれば、筋の入った額がピシピシと凍り付いていた。


 ひいっ! 久しぶりだわ、この感じ。

 そうだ……最近穏やかだからすっかり忘れていたけど、彼は黒鬼チョーさんじゃなくて冷徹だったんだわ。


 騎士団長夫人のくせに下品だって叱られるのかしらと、強烈なブリザードを覚悟し身構えた。



「お前は……何と下品な妻なんだ」


 ほらね。


「俺という完璧な夫がいながら、他の男なんかをいやらしい目で眺めるとは」


 うんうん! …………ん?


「クラヴァット? ボタン? そんなに観たいなら魅せてやろう」


 首を気だるそうにもたげ、長い指をクラヴァットに差し込む冷徹。するりとほどいたそれを放り投げると、ベストとシャツのボタンをほとんど引きちぎる勢いで外した。



 ────露になる美しい胸板と腹筋。

 大きなガラス窓から差し込む午後の陽が、精巧な造形を隅々まで照らした。


 綺麗……彼らも素晴らしかったけど、やっぱりこの人は特別だわ。

 さすがヒーロー。神様(作者)の贈り物ね。


「……来い。俺が相手してやる」


 差し出された手。指をくいっと折り曲げる彼の目には、氷ではなく青い炎が揺らめいていた。



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なにぃっ!? もうすっかり長さんだった冷徹さんが! ちょいエロ系少女マンガのイケイケ男主人公の様に!
完璧な夫…こいつ自己評価高ェな! サツキ的には満更間違ってなさそうだけど。
「……来い。俺が相手してやる」のシーンを想像してお茶を噴きそうになりました。
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