25 悪女は鬼をベッドへ誘う
わくわくしながら、ベッドの端に腰掛ける私。
「では、お願い致します」
隣に座っていた黒鬼が勢いよく立つと、干し草が私の方へぽふんと傾く。わざと手を上げズッコケの姿勢を取りながら、予め床に置いておいたクッションの上に落っこちてみた。
ずっと憧れていたコントのワンシーン。
赤と黒の鬼が立ち去った後、黄緑が雲から落ちるオチに何度も笑ったっけ。
……あれ、よく考えたら、鬼じゃなくて雷様だわ。まあどっちでもいっか。
「……満足か?」
クッションの上に転がったままニタニタ笑う私を、怪訝な顔で見下ろす黒鬼。もう一回と何度もせがみ、十回ほど楽しんだところでやっと満足した。
今度クニコに、黄緑鬼の衣装を作ってもらおう♪ なんて考えていると、身体がふわりと宙を浮いた。
「転んで頭がイカれたようだな。いい加減大人しく寝とけ」
冷たい口調とは反対に、ベッドに寝かせてくれるその手は温かい。背中に残った温もりはじんじんと熱を保ったまま、柔らかな干し草に包まれ、全身へと広がっていく。
ふわふわふわふわ
ダメ……まだ黒鬼が居るのに……
恋のときめきと睡魔。勝ったのは……後者だった。
Ꮚ ֊ .̫ ֊ Ꮚ ᐝᏊ ֊ .̫ ֊ Ꮚ ᐝᏊ ֊ .̫ ֊ Ꮚ ᐝ
……ったく、気持ち良さそうに寝やがって。
スカートの件といい、こんなに無防備な女がいるかと鬼は呆れる。
午後の強い日差しと豆を浴びた身体は、ベタベタと汗ばんでいて気持ち悪い。上半身はまだしも、下半身は通気性の悪い細身のトラウザーズに加え、虎の毛皮付きという拷問だ。
トラウザーズなど要らなかったんじゃ……と毛皮を捲ってみて、ああと理解する。
一刻も早く風呂に入りたい。だが、ガキの容態が急変した時、誰かが傍にいなければ対処出来ない。何しろ額を強く打ち付けているのだ。見た目はただの擦り傷でも、油断出来ないだろう。
ナガディアか侍女長が来るまでは監視してやるかと、傍の椅子に腰を下ろした。
時計の秒針だけが響く室内。
ぽかんと開いた口から、つうと涎を垂らす華奢な鬼を、大鬼はまじまじと見つみる。
……こうして見ると、やはり人間と変わりないな。
知性や品格には欠けるものの、それなりに顔立ちもまともだ。
オミオツケに魔除けにオニ退治。やれることは全てやった。すぐに効果が表れるのか、それとも徐々になのか……慎重に観察していこう。
丸窓から差し込むのは、夕方へと向かう柔らかな陽の帯。月ではないが、これもなかなか悪くないと目を細める鬼を、不意に睡魔が襲った。
元々神経質な上に気を張っている為、最近では夜間に熟睡することも叶わない。浅い眠りを何となくやり過ごしては朝を迎えている自分が、こんな時間に欠伸をしていることに驚く。
そういえば……あの悲惨な宴の翌朝も、人生初の二度寝をしたなと思い出し、ふっと笑う。
鬼は目を擦りながら立ち上がると、ベッドの真ん中で寝ている小鬼を丁寧に押し、壁際に転がす。
馬の餌がそんなに気持ちいいのか? 座り心地は悪くなかったが……と、空いたスペースに横になれば、想像以上の快感にすぐに羊が飛び始めた。
ふわふわふわふわ
ダメだ……風呂に入らなければ……フ……ロ……
Ꮚ ֊ .̫ ֊ Ꮚ ᐝᏊ ֊ .̫ ֊ Ꮚ ᐝᏊ ֊ .̫ ֊ Ꮚ ᐝ