表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪女のままで結構です。べつに。  作者: 木山花名美


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

27/72

23 悪女は豆を投げる

 

 う……うわあああぁ……


 おみおつけを飲んだその翌日、突如目の前に現れた鬼に、私は言葉を失う。


 色っぽい喉仏が主張する首には、長い革紐に獣の牙を通したネックレスが掛けられ、厚い胸板に凶悪さを醸し出す。見事に割れた腹筋から腰へと目線を移せば、黄色に黒の虎柄のパンツ……ではなく、リアルな虎の毛皮が巻かれている。その下から伸びる二本の長い足は、ピタッとした黒い股引ももひき……ではなくトラウザーズに包まれており、男らしい骨張った素足の甲を引き立てる。

 再び上へと目線を戻せば、トゲトゲの金棒……ではなく、いつも腰に差しているのとは違う巨大な剣が、大きな手に軽々と握られている。

 更に見上げれば、広い肩幅を絶妙なバランスで引き立てる小顔。そこには綺麗なパーツが寸分の狂いもなく配置されており、これでもかと凛々しい輝きを放っている。

 特に魅力的なのが、その青い瞳だ。中心に向かうにつれ、どんどん濃く深くなる不思議な色味は、ずっと見ていると引きずり込まれそうになる。慌てて天辺へと目を逸らせば、鬼にピッタリの緩やかなウェーブの黒髪から、人参でこしらえられた二本の角が生えていた。


 惜しいなあ。あれが動物の角だったらと思うけど、急ごしらえの衣装にしてはかなりのクオリティではないだろうか。

 ……うん、それは彼自身が芸術作品だからだ。上半身は素肌丸出しなのに、全然いやらしさがないどころか気品に溢れているなんて。

 完璧な青鬼……いえ、黒鬼?


「どうだ。素晴らしすぎて声も出ないだろう」


 小憎らしいドヤ顔につられ歪む唇。そこから漏れる声がやたらと魅惑的で、ドキリと心臓が跳ねる。


 生きてる……

 彼は、この美しい人は生きている。

 漠然と綺麗だと思っていた人は、CGでも創り物でもなく、生きた人間であることに初めて気付いた。


「うん……素敵、綺麗、すっごくカッコいい!!」


 素直に溢れる言葉に、悪魔……ではなく鬼は、顔を真っ赤にする。

 やっぱり黒じゃなくて赤鬼かな。ま、何でもいいか。


 鬼は手でパパパと顔を扇ぐと、腕を伸ばし、巨大な剣(鞘付き)を私に向けて言う。


「さあ、ガキ。お前とは段違いのこの素晴らしいオニに、思う存分豆を投げてみろ。投げて投げて、己のオニを祓え!」


 己の鬼?

 ちょっと何言ってるか分からないけど、カッコいいからいいや。

 シェフやナガクニコ以外の使用人達も集め、升代わりの四角い箱を配る。各々、煎り大豆の中に、ざくりと手を入れ構えた。


 こちらを睨んだまま、じりじりと距離を取る鬼。

 兵が吹くほら貝を合図に、異世界の節分大会は幕を開けた。




 ────かれこれ二十分以上が経つ。

 が、全然鬼に豆が当たらない。こんなに大勢で投げているのに……


 てか足速すぎ。あんな重たそうな剣を持っているくせに。さすが王国騎士団長、見た目だけじゃなく、身体能力も鬼並みだわ。


「「「オニワーソト! フクワーウチ!」」」


 私が教えた掛け声を叫びながら、皆、懸命に鬼を追う。さすがの鬼もやっと疲れてくれたのか、徐々に距離が詰まってきた。

 渾身の力で投げた豆。おっ、当たるか? と思いきや、大剣で呆気なく弾かれてしまった。


「ねえ! 豆を受け止めてくれるんじゃなかったの? こんなに逃げてどうするのよ!」


「身体が勝手に動くんだから仕方ないだろう! みすみす攻撃を受ける騎士団長がどこにいる!」


「これじゃあ鬼を祓えないわよ!?」


「ならばもっと必死に走れ! 投げろ! 己と闘え!」


 ちょっと本当に何言ってるか分からない。けど悔しい。絶対に当ててやると意気込みながら、目に入った汗を拭った時だった。


 ぐえっ!


 足がもつれ、平衡感覚を失った身体が前に傾く。右手は目元に、左手は升を持っていた為に、顔から地面に突っ込んでしまった。


「……おい!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木山花名美の作品
新着更新順
総合ポイントの高い順
*バナー作成 コロン様
― 新着の感想 ―
邸に鹿の頭とかは飾られていなかったのか、残念。 サツキ転倒!? これ、冷徹さんの勘違いが発生するフラグだな!
人参のツノというのに笑ったが。。。 主人公、大丈夫かな?
鬼装束の冷徹さんの美麗さを表す言葉の中に突如として現れた人参の角に噴き出してしまいました(笑) 一瞬、無加工そのままで挿してあるのかと思ったのですが、角に見えるように切ってあるのでしょうか。 反射的…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ