【おまけ】 屋根裏の女子会
「屋根裏の夜に……乾杯!」
「乾杯!」
こくっこくっ……こくん。
「うっ……うまあ…………う、うええぇ」
「奥様、せっかくのワインに涙が落ちてしまいますよ」
「そうね……でも泣かずになんていられないわ。一週間ぶりの酒なんですもの。うう……まるで織姫と彦星の気分よ」
「大切なお酒ですのに。本当に私が頂いてもよろしいのでしょうか?」
「いいのよ。どうせ一瓶じゃ満足出来ないんだし。だったら誰かと楽しく飲んだ方が、美味しいでしょう?」
「……私のコレクションを差し上げられたら良いのですが。あの宴以来、使用人の飲酒まで細かく制限されてしまいまして。全て没収され、今はご主人様の管理下にあるのです。掟を破れば即解雇という厳しい罰則付きで……うう」
「みんなのささやかな楽しみまで奪うなんて。ったく、横暴すぎるわ!」
「……くすん。週一回の、この飲酒は許可を得ていますので。楽しく飲みましょう。ほら、今夜もシェフが特製オードブルを作ってくれましたよ」
「うわあ、美味しそう! いただきます!」
「ふふっ。それにしても……まさかこの離れで、奥様とこうしてグラスを交わすことになるとは。あの時の私は、思いもしないでしょうね」
「クニコやみんながお掃除してくれたお蔭ね。ここの屋根裏がこんなに素敵な場所になるなんて」
「奥様、その節は本当に……」
「もういいのよ。私がどうしても掃除したくなかっただけなんだから。それより見て! 今夜は月がすごく綺麗よ」
「まあ! 丸窓に映る丸い月。まるで絵画のようですね」
「たぬきの腹鼓が聞こえてきそうだわ。丸いお腹に、丸いお団子に、丸い盃。ああ、日本酒が飲みたくなってきた。こんなに美味しい白ワインを飲んでいるのに、私ったら贅沢……あら、もう空だわ」
「お注ぎ致します。……奥様、もしお酒の量をもっと増やして欲しいとお考えでしたら、ご主人様に認めてもらうしか方法はありません」
「認めて?」
「はい。飲んでゴロゴロしてばかりの愛らしい妻ではなく、騎士団長夫人に相応しい立派な妻として認めてもらうのです」
「でも私、家事はしたくないの」
「家事など、そのようなことは奥様の仕事ではございません。そうですね……まずは三ヶ月後の建国記念祭で、王国騎士団長夫人としての存在感を示されることでしょうか」
「建国……記念祭」
「はい。王宮で行われる行事で、ご夫婦同伴が必須です。この度のご結婚は王命によるものですので、国王陛下にはきちんとご挨拶せねばなりません。もちろん陛下だけでなく、他のご来賓の方々にも。あの冷徹騎士と結婚した女性がどんな方なのかと、注目の的になることは間違いないでしょうから」
「……すっかり忘れてた。冷徹とメイリーンの一大イベントじゃない! 着飾ったメイリーンが王子にチヤホヤされて、冷徹が嫉妬と共に恋心を自覚するの。まあサツキにはあり得ないだろうけどね。あははっ」
「?」
「何でもないわ。ねえ、それ、行かなきゃダメよね?」
「当然です。そろそろドレスも仕立てませんとね。騎士団長夫人としての心得やマナーを学んでいただいたり、他にも色々覚えていただく必要があります」
「トホホ……」
「……奥様、夜会では、最高級の発泡性ワインが振る舞われるそうですよ」
「わお! 異世界のドンペリ!?」
「お食事も豪華で」
「行く! 絶対行く!」
「私もお供致しますので。ふふふ♪」