14 悪女は爆睡中
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冷徹騎士のモーニングルーティーン
༓࿇༓5時半起床༓࿇༓
顔を洗い歯磨きをすませると、鍛練場で筋トレと剣トレをする。
༓࿇༓6時半༓࿇༓
軽く汗を流して着替える。
外出の予定がなくても、きっちりとクラヴァットを締める。
༓࿇༓7時༓࿇༓
朝食。
メニューはいつも、鶏もも肉or鶏ささみと、卵とトマトとブロッコリーとレタスのサンドウィッチ。
豆のサラダとフルーツ、搾り立ての牛乳も欠かせない。
༓࿇༓7時半༓࿇༓
97℃の湯で淹れた紅茶を飲みながら、新聞を読む。
༓࿇༓8時༓࿇༓
執務or騎士団の訓練等で外出。
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このルーティーンは、屋敷の者達のたゆまぬ努力によって、毎日正確に整えられている。
たとえ一分でも予定がズレると、冷徹は一日中不機嫌になるからだ。
ところが────
今朝の屋敷は恐ろしいほどに静まり返っていて、いつもは忙しなく動いている人の気配が全くない。当然洗面用の水やタオルも整えられてはおらず、冷徹騎士は自分で井戸まで水を汲みに行かなければならなかった。
何とか洗面を済ませるも、何時間も肉を焼き続けた身体は重く、とてもトレーニングなどする気にならない。ガウン姿のままソファーに横たわると、長い足を行儀悪く投げ出した。
そのまま人生初の二度寝をしてしまった冷徹。7時きっかりに鳴る腹の虫に起こされるも……どうせ何も用意されていないだろうと、食堂ではなく食料庫へ向かう。悪女に荒らされた寂しい棚から幾つか食材を手に取り、厨房のドアを開いた瞬間、彼は絶句した。
鍋、ナイフ、カッティングボード、骨や野菜の皮などの生ゴミ……とにかくあらゆる物が放置されている。そういえば……と、歌ったり踊ったりしていたシェフの痴態を思い出し、冷徹は額を押さえた。
普段の冷徹であれば、シェフを叩き起こし寝巻きのまま片付けさせる所だが、それなら他の使用人達も全員同じようにしなければならない。さすがに面倒になり、起きたら叱るかとため息を吐いた。
鍋の蓋を開ければ、狂宴の引き金となった牛ほほ肉と赤ワインのシチューが残っている。くんくんとにおいを嗅ぎ、傷んでなさそうなことを確認すると、火を通し皿に盛る。食堂へ運ぶ気力もなく、厨房の丸椅子に腰掛け、すっかり固くなった残り物のパンと一緒に食べた。
もはや紅茶など飲む気もしない冷徹は、厨房を出たその足で図書室へ向かう。悪魔と契約した女……悪女に関する文献を調べる為だ。
……まずはこれだな。
『悪魔と契約した女達』というドンピシャすぎる背表紙に指をかけ、パラパラと捲りながら悪夢を振り返る。
冷徹が悪女に侍女長の処分を任せたのは、もちろん使用人達への戒めであると同時に、悪女がどんな残忍な罰を与えるか興味があったからだ。
それを逆手に取られ……悪女はたった一晩で、真面目だった使用人達を堕落させてしまった。酒と肉で誘惑し、愚かな人間の欲と本能をむき出しにさせ、主への忠誠心を奪う。結果……使用人達は、絶対的な主として君臨していた冷徹を、給仕としてこき使うという暴挙に出たのだ。……聞くに耐えない暴言まで吐きながら。
噂に聞いていたのは『男狂いの悪女』だが、『酒狂いの悪女』と言った方がしっくりくる。しかしこの『悪女』という言葉も、品が良すぎて彼女にはどこか合わない気がしていた。悪女よりももっと粗暴で凶悪な……
悪魔や悪女関係の本を棚に戻し、手にしたのは東の国の魔物が描かれた本だった。
パラリと開いたその一ページ目に、冷徹は釘付けになる。
「……オニ?」