13 悪女は友と鬼を語らう
「私も若かったから、簡単に騙されちゃいましてね……ひっく『君こそ真実の愛だ』なんて言ったくせに、もっと若くて美人なメイドが入ってきた途端、コロッとそっちに乗り替えちゃってさぁ。……二人とも、私のことが邪魔だったんでしょうね。そのメイドを虐めただの、盗みを働いただのとでっち上げて、このお屋敷から追い出そうとしたんですよ……ひっく。私は冷徹騎士に気に入られていたので、元々他のメイド達からよく思われていなくて。みんなここぞとばかりに、二人に加勢するんですよ! 酷くないですかぁ!?」
「酷い! 鬼ばかりじゃない! あんらも苦労しらのねえ。……それで、そのクソ従者と泥棒猫はどうなっらの?」
「仕事そっちのけで泥棒猫とチョメチョメしたせいで、解雇されました。二人セットで。妬みと陰口ばかりでロクな仕事をしないメイド達も全員。冷徹騎士がね、先代にチクってくださったお蔭なんですよ……ひっく」
侍女長はウイスキーの井戸水割りを呷ると、目にじわりと涙を浮かべた。
「あんなに可愛かった冷徹が、まさか私に剣を向けるなんて……昔は『クニーナ! クニーナ!』って、弟みたいに慕ってくれたのに。先代が戦地で亡くなってからは、あんな血も涙もない人間になっちゃって……ううう」
おいおいと泣くその顔は、よく見れば小姑2に似ているけど、何だか憎めない。
よしよし、懲らしめてやるからなと背を撫でながら、もっと肉を焼けと悪魔にジェスチャーした。
私も井戸水割りをぐびりと飲みながら前世を振り返る。
「若い頃っれさ、突っ走っちゃうのよね。私……の友達も、高こ……学園を中退しれ、中華り……飲食店の息子と結婚しらんだけど、そこですごく苦労しれね。家でも店でも姑にこき使われるわ、旦那は頼りにならないわで大変だっらんだから。おまけに小姑夫婦まで同居しれさ」
「ええっ! 奥様のご友人でしたら貴族のご令嬢ですよね? なんとお気の毒な」
「でしょう!? 特に小姑なんか、大しれ働きもしないのに、お夜食だけはしっかり食べるんだから嫌になっちゃう。一番酷かったのは遺産相続の時でね……」
「ごちそうさまでした」
ペーターはあっという間に山盛りの肉を五皿平らげると、その辺を片付け始めた。
さすが食べ盛り! 誘ってみてよかったわ。
「ねえ、お腹が一杯なら、こっちで一緒にお喋りし」
「いえ。明日も早いので結構です。ありがとうございました。おやすみなさい」
ペコッとお辞儀をすると、シェフと肩を組んで歌っているおんじを置いて帰って行った。
悪魔は私達の前に肉の皿を乱暴に置くと、トングをカチカチ鳴らしながら、冷気混じりの声を吐き出す。
「……そろそろ火を消す。子供も帰ったし、お前ら以外はもう誰も食べないだろう」
辺りを見回せば、酒にすこぶる強いナガコ以外は、みんなベロベロに出来上がっている。
「そうねえ。みんなはどうか分からないけど、私は何だかお腹が空いれきらわ。まだ余っれるし、全部焼いれ食べちゃいましょう! ねっ、クニコ」
「そうですね。冷徹! もっと肉焼いて」
「……何だと?」
ピシッ……ピシピシ……ピシ
最大級の青筋が額に隆起し、はちまきみたいに巻いていたクラヴァットがずり上がる。
「今度は人肉でも焼いてやろうか……」
悪魔が凍った剣の柄に手をかける。
あらら、切られちゃうのかしらと思うけど、ふわふわ気持ち良すぎて動く気がしない。するとあちこちから、酔っ払い達のご機嫌な声が飛んできた。
「冷徹、肉! 豚焼いて!」
「俺野菜! 玉ねぎあんまり焦がすなよ?」
「こっちは鶏肉! ちゃんと中まで火ぃ通して!」
ピシピシ……ピシッ……ピシ…………すん
柄からダラリと手を離した悪魔は、落ちたトングを拾い、闇に揺らめく業火へと戻って行く。
「いよっ、冷徹! イカした肉焼き名人!」
「イカれた肉切り男!」
「トングちゃんと洗えよ!?」
放心状態で、全ての食材を処理した悪魔。
こうして狂宴の夜は更けていった。




