表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/72

12 悪女は飲み友を得る

 

 悪魔は凶悪な目をぱちくりさせ、左右、後ろと振り返る。やがて、『俺?』という風に自らを指差せば、皆一斉に頷いた。


 ピシピシ……ピシッ


 額、頬、首……とにかく沢山の青筋を立てながら、悪魔は立ち上がる。


「お前ら……俺を誰だと思っている」


「冷徹騎士。肉を切るのは得意でしょ? 早くナイフ持っれ」


 私の言葉に、南極みたいな空気が一変する。

 皆、小刻みに身体を震わせ……侍女長に至っては、ぶふう! と盛大に吹き出した。


 悪魔は何か言いたげに口をパクパクさせるが、言葉にならないのか大きな舌打ちに留まる。大股でつかつかとこちらへやって来ると、使用人から「貸せ!」とナイフを引ったくった。


「よろしくね~綺麗に切っれよ」

「…………くそっ、悪女め。見てろ!」


 シュパパパと、鮮やかな手付きでスライスされていく肉や野菜に、皆おおっと拍手をする。

 これで安心と、めいめい皿や飲み物を手にしては、芝生の上で寛ぎ始めた。



「奥様、どうぞ」


 冷たい井戸水でこしらえたという果実水を差し出すのは、昨日から私の侍女になったらしいあの若いメイド。


「ありがとう」


 気が利くぅ! と、煙でイガイガする喉にそれを流し込んだ。

 このも私を無視したのだから、本当は罰するべきかもしれないけど。悪女の侍女になっちゃったこと自体が罰みたいなものだから、まあいいかと思った。

 それにこの娘……顔も雰囲気も、なんとなく末妹ナガコに似ていて可愛いのよね。つい、よしよしと頭を撫でてしまう。



「あの……」


 静かにやって来る侍女長。その手に皿はなく、お代わりじゃないの? と問えば、おずおずと話し出した。


「あの、奥様に是非ともお召し上がりいただきたい物があるのですが……。部屋から取って来てもよろしいでしょうか?」


 お召し上がり……食べ物!?

 何だろうとわくわく送り出した数分後、彼女は数本の瓶を抱えて戻って来た。


 あれは……!

 遠目にもセンサーが働く。

 手袋とトングをナガコに託し走って行けば、侍女長は瓶を並べながら楽しそうに説明を始めた。


「実は私、晩酌が趣味でして……舶来物の珍しい酒を収集しては楽しんでおります。この度のお詫びと寛大なご処分のお礼として、是非奥様に召し上がっていただきたいと、オススメを選んで参りました。こちらは麦で作った蒸留酒、こちらは発泡性のあるワイン、こちらはお米の……」


 うっ、うおおお……

 まさか異世界で、ウイスキーやスパークリングワインや日本酒まで飲めちゃうなんて! 作者はきっと酒好きに違いない!


 一応「もらっれいいの?」と訊きながら、早速どれにしようかと瓶を選ぶ。グラスにしゅわしゅわ泡立つそれを注ぎ、はいと侍女長に渡せば、困惑した表情を浮かべられた。


「みんなで一緒に飲みましょ! ナガコもこっちおいで!」

「あ……ですが焼き係は……」


 何も言っていないのに、皆一斉に悪魔の方を見る。


「……ふざけるな。俺は切り係だろうが」

「もうそれだけ切っれあればいいわよ。今度は焼いれちょうだい」

「…………くそっ!」


 切ろうとしていた塊肉にナイフを突き立てると、悪魔は山盛りの食材を手に、素直に網へ向かった。



「みんなグラス持っら? それじゃあ……異世界に乾杯!」

「「「「「かんぱぁい!!」」」」」



 ────それからまた二時間後。

 月とランプと炎が照らす仄暗い庭には、悪魔も真っ青の恐ろしい光景が広がっていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
木山花名美の作品
新着更新順
総合ポイントの高い順
*バナー作成 コロン様
― 新着の感想 ―
男がひとりで、女性軍団に勝てるはずがないのだ!
異世界での酒盛り、楽しそうです。主人公がみんなを巻き込んで、乾杯までしてしまうところが凄いですね。また、冷徹騎士さえ手玉にとって、肉や野菜を切らせてしまう主人公に、これはもう怖いものがなさそうですね。…
そうだ! 酒好きにちがいない!笑 冬野はウィスキーよりもブランデー派♪
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ