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7. コンタクト

 落ちる……落ちる……


 超加速状態の僕の知覚には、重力の作用も緩慢に感じられた。

 それは敵、巨大クーガーも同じことだろう。

 僕たちはゆっくりと地上へ……その前に再度、不確定フィールドの中へと落ちていく。

 やがて、二体のクーガーはもんどり打ったまま、フィールドに接触した。


 その時、想定外のことが起こった。


 僕と敵クーガーの極限定不確定フィールド……そしてすでに新宿を包んで完成したフィールドと合わせて三つの不確定フィールドが重なり合い、複雑な因果律の歪みによって起こるはずのない意識の交感状態(コンタクト)が発生したのだ。


 僕と敵クーガーの念気動格(フレーム)との間で……


 僕は自分のまわりに、何者かの影を感じていた。

 それも一人ではない。複数の誰かが、まわりにいて僕に語りかけてくる。


 奇妙なことに、そこに敵意はない。

 次第にイメージとして交感状態が定着してきた。

 真っ白な空間にぼんやりと浮かび上がる影として……

 

 四人。

 僕の前に四人の人影が座っている。

 まるで、お茶会に呼ばれたかのように穏やかな雰囲気。

 

「どうやら君の勝ちらしいね……」


 影の一人、年配の男性が言った。

 顔や姿はぼやけているが、声ははっきりと聞こえる。


戦闘用強酸性液(バトルアシッド)は恐ろしい武器ね。私たちにはないけど……」


 男性と同じ年頃の女性が口を開いた。

 どうやら二人は、夫婦らしい。

 夫婦?


 僕の疑念に先回りして、男性が言った。


「私たちは家族なのだよ。私と妻と、娘と息子……皆でこの闘獣機(クーガー)を支えている」


 家族!

 そんなことがあるのか?

 家族がまとめて念気動格(フレーム)としてクーガーにインストールされるなどということが……


 先ほどの女性より若い女性の声がした。娘なのだろうか。

「あなたは偉いわね。一人であのクーガーをコントロールして、アンロックにも耐えている」

「君の騎手(コマンダー)は並外れて勇敢か、無謀な愚か者かどちらかだね」

 若い男……息子の声が続いた。


 僕は意を決して彼らに話しかけた。

「あんたたちは……四人で一体のクーガーを動かしているってこと?」

 年配の家長が答えた。

「うむ。このガ級クーガーはマニピュレータも多いし、何より量子因果干渉脳(リフォーマー)を積んでるからね。構造が複雑だから、戦闘用強酸性液(バトルアシッド)も搭載していない。君たちを包んだ不確定フィールドのコントロールには我々も関わっているんだよ。さらに、君がアンロックしたのを見て我々も追随したことで、状況の制御はとてつもなく難しくなった。家族で協力しなければ、とても耐えられん」

「あなたも家族がいたでしょう? もうそんなことも忘れてしまったかしら?」


 家長の妻の言葉に、僕はぼんやりと過去の記憶をたぐった。

 家族……家族……いたはずの……母……父……

 どんな者たちだったろう……?


「思い出してみなさい。私たちも人間だった頃の、本当の家族だった時のことを思い出しかけている。彼ら(・・)の兵器にされて、何の疑念も抱いていなかったが……コマンダーがいなくなって自分たちだけになったからか、意識がこれまでなかった方向に動いている……」

 家長……夫……父が言った。


 人は家族の一員となることで、呼び名がいくつにも増える。忘れかけていた当たり前のことに、僕は意識をそそられていた。


 娘……姉だろうか妹だろうか……が言った。

「不確定フィールドが三つ重なったのには気付いたでしょう? きっとそのせいなんだと思うわ」


 確かに、クーガーとなってから感じたことのない方向に意識が動いている。

 それは自分でもはっきりと分かった。

 だが、その先にあるものが果たして何なのか……


「私たちはクーガーであることをやめることは出来ない。だが、クーガー以上の存在になることは出来るのではないか? そんなふうに考えられないか?」


 そう言ったのは誰だろう?

 家長のようでもあり、息子のようでもあった。

 だんだんと、あたりがぼやけてきたような気がする。

 目の前の家族たちも、次第に溶け合うように重なる影となっていった。


 聞こえる声も四人のものが混じって一つになった。


「我々で新しい可能性を探してみないか? 君も一緒に……我々の家族になって……共に生きることで、新しい道を探しに行こうじゃないか……」


 そう……そうしてもいいかもしれない……

 

 人間として誰かと繋がっていたいという、今まで完全に忘れていた欲求が静かに鎌首をもたげた。

 それに反応したように、一つに重なった「家族」の影が大きく広がって僕を包み込もうとした。


 僕は彼ら……「家族」に捕えられ……そのまま呑み込まれた……

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