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09スラムと青い瞳


 スラムは見世物小屋と雰囲気が似ている。

 すっかり日も落ち闇が訪れてもボンヤリとしたか明かりしか灯らない。

 周りの連中も絶望や殺意の色が濃い。


 今朝まで同じような場所にいたんだよな。

 濃厚な一日を振り返りたいところだが、グレースを探すとしよう。



「ねぇ。お兄さんたち」

「あん?」



 晩飯時からつけ回している2人の男はダルそうに僕を見るが、舐めるように見ていることを察するに品定めでもしているようだ。


 金目の物なんて持っていないから構わない。



「グレースって人を探しているんだけど知らない?」

「グレース? そんな女は知らねぇな。それよりお前いいもん持ってるな」



 嘘だ。

 性別を教えた覚えはない。

 名前からイメージしているかも知れないが虚偽の色が見えている。



「一文無しだよ。ほら」



 ポケットを裏返して見せる。

 いったいなにを言っているんだ?



「あるじゃねぇか。その腕が」



 僕の右腕をつかみ男はニヤリと顔を歪める。

 あー、そういや義手はめちゃくちゃ高いんだったな。

 袖が短いせいでバレたか。



「とらないでって言ったらどうする?」

「そうだな。死体から剥ぎ取ろうと思う」

「じゃあ、あげるよ」

「お、話がわかるじゃねぇか」

「外すからちょっと待ってね」



 嬉しそうに義手をつかむ男は力を弛めると同時に気も弛めたようだ。


 舌なめずりをする下品な顎に僕は力いっぱい蹴りをくれてやった。



「いでぇえええ!!」

「おい! ガキが!」



 飛び散る血しぶきと男の悲痛が戦いのファンファーレとなる。

 さあやっちゃったもんは仕方ない。

 もう理不尽に心を殺されたくないからね。

 それに、ひとり相手ならなんとかなるかも知れない。



「で、グレースって知ってる?」

「知らねぇつってんだろ!」



 もう一人の男に声をかけると怒声と共に拳が飛ぶ。

 でも僕には当たらない。

 攻撃するときの色が濃くなればなるほど、どこをどう狙っているかがわかる。


 がら空きのアゴに左ストレートを入れると、糸が切れたみたいにもう一人の男は倒れてしまった。


 なるほど、毎日胴体を引きずりまわした僕の左腕はいい武器になりそうだ。



「グレース。知っているでしょ?」



 手がかりをしていそうな二人に問う。

 しかし、一人は気を失い。

 もう一人は口をおさえ走りさってしまった。



「他人のシマで暴れるなんて頭足りていないんじゃない?」



 背後からやわらかい声がかかる。

 振り返るとスラムの夜に小さな青空が二つ浮かんでいた。

 滝のような青い髪が乱れると同時。

 色を見る間もなく僕の顔は衝撃を受けた。

 世界が揺れ、まわる。


 特徴の一致。

 きっと彼女がグレースだ。


 手がかりをつかんだ僕の意識は滝に飲まれるように深く沈んでしまった。






 滝壺から生還した僕の目の前には見知らぬ天井が広がっていた。

 起き上がれば生活感はあるが綺麗に整頓された部屋に寝ていたことがわかる。

 護身用だろうか、こん棒もきっちり収納され部屋の風景に溶け込んでいる。



「やっと起きた。さあ帰って」

「グレースが介抱してくれたの?」

「あのまま死なれても寝覚めが悪いからね。さあ帰って」

「ありがとう。やっぱり君がグレースなんだ」



 目を丸くするグレースは反省するように額に手をあてる。



「いいから帰って」

「グレースはスラムでなにをしているの?」

「なかなか話を聞いていないようね。オヤジの使いらしいわ」

「近況となんでガンバスを嫌うか教えて」



 また目を丸くしている。

 様子を見るにガンバスは何度か調査に他人を使っていたようだ。



「オヤジからの依頼だって隠しもしないのね」

「お父さんのなにが嫌いなの?」

「なにも答えるつもりはないわ。帰って」

「ほんとはガンバスのことが気になっているんでしょ?」



 教えてくれないなら逆に教えてあげよう。



「ガンバスはグレースを心配していたよ」

「オヤジは心配なんてしていないさ。コントロールしたいだけ。体裁はしっかり整えて仕事をしたいだけなの」

「なんでそう思うの?」

「あんたがきたから。心配なら自分でくるだろ普通」

「恥ずかしいんだって」

「それならそれでキモいわ」

「僕もそう思った」



 途端、見知らぬ部屋に新しい空気がまいこむ。

 玄関にひとり。スラムの住人にしては小綺麗な男が立っている。



「な、ナイル! おかえり」

「グレース。お客さんかな?」



 はっきりと聞き取りやすい声と視線はグレースに向けられる。

 笑みを浮かべ「そうだよ」と肯定したグレースはそそくさと部屋の奥へ消えていく。



「どうも」



 目的を達成した僕は脱兎のごとく一直線に出口へと向かう。

 しかし、ナイルの体が立ちはだかり優位性を示すように上から声をおとされる。



「なにをしにきたの?」

「噂のナイルを一目見たかっただけさ。思ったとおりの人で安心した。それじゃ僕は帰るね」

「ゆっくりしていきなよ」



 肩をつかもうとする手を躱し、話は終わりだと言わんばかりに出口へ向かう。



「わりと忙しいんだ僕」

「ひとつ聞かせてくれ、俺の第一印象は?」

「んー、純粋な人かな」



 ナイルは納得したように出口への道をあける。



「またあそびにきてね」


面白くなりそう!

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