07義肢装具と小心者
「ここが魔道具屋ガンバスか」
派手な短髪女リリは道中ずっとペットになるよう勧誘してきたが、約束は果たしてくれたようだ。
ドアノブに手が届かないのでドンドンと扉をたたく。
「あのー、誰かいませんかー?」
扉の奥から「待っていろ」と低いダミ声が聞こえたので大人しく待つこと5分。
「なんだてメェ。壊れた人形みたいだな」
失礼極まりないおっさんが出てきた。
「――――で、義肢装具がほしいんだったな?」
店に入ってからも「待っていろ」と30分以上待たされたがようやく話が進みそうだ。
「そうだよ」
「義肢装具は高い。お前には払えない。帰れ」
商売する気ある?
退室を促す手はマメだらけでゴツゴツと固そうで、凝り固まった頭のおっさんそのものだな。
「なんで金がないなんてわかるのさ」
「なんでもクソもない、手ぶらじゃねぇか。金は袋に入れて持ち歩くんだ。身なりだってお粗末、ボロ布を巻き付けているやつは金をもってねぇ。常識だ」
やっぱり頭が固い。
「じゃあ、もし僕が金を持っていたら格安で義肢装具を見繕ってよ」
「いいだろう。ただし白金貨を持っていればの話だ」
よしよし。ラッキー。
もちろん見世物小屋で投げられた硬貨は一枚も僕の懐に入らなかった。
仕事を出来る状態じゃないし、時間もなかった。
でも袋なら産まれたときから持っている。
いつもは固いパンしか入らないけど、今日は特別に硬貨をいれてきた。
「ちょっとまってね……うぇ……おろぉおぅ」
「てメェ汚ねっ!」
消化液のついた白金貨がきっちり10枚。
退職金代わりに金庫から持ってきておいてよかった。
「頭は柔らかく使わなきゃ。約束だよ、格安料金でお願いね」
「やるじゃねぇか。だがな白金貨10枚ぽっちじゃ足りねぇぞ? 一番安いシリーズでも白金貨で片脚3枚、片腕10枚。3割引きにしても金貨12枚足りねぇぞ?」
「そこをなんとか。未来のお得意様への先行投資と言うことで」
「無茶苦茶言いやがるガキだな」
限界まで詰めてきたがダメらしい。
手足がないと行動の幅がかなり狭くなる、と言うか死に直面したままだ。
「不安を抱えているのは分かるけど邪険にしないでよ」
「あー? 不安なんて抱えていねぇよ」
「あー、不安と心配だったね誰を心配しているの? ん? 胸ポケットにヒントがあるの?」
「てメェ!?」
やっぱり、図星をつかれて色が濃くなった。
恐る恐る胸ポケットをおさえる手が、おっさんは以外にも小心者だと僕に伝えてくる。
「心が読めるのか?」
「経験上なんとなくね」
と言っても見世物小屋でできるのは僕だけだったけどね。
観客の表情や仕草なんかが、なにをするとどう変わるのか生きるため必死に観察し続けた結果、感情が色で見えるようになっただけだ。
外の世界で使えるかどうかわからなかったけど、おっさんの反応を見るにある程度は使えそう。
「俺はガンバス。取引をしねぇか」
「僕はハルク。いいね、報酬は金貨12枚以上で頼むよ」
「食えねぇガキだ」
「で取引の内容は?」
おっさんがゴツい指を付き合わせる。
葛藤の具合がわかるほどにモジモジと指をくねらせている姿はなかなかに気持ち悪い。
「あの……その……なんだ……ある人が……俺をどう思っているかなー……なんて……」
「え? なんて?」
「あー、くそっ! む、娘が俺をどう思っているか調べてこい!」
「え」
「よく思っていなかったら、よく思われる方法をつかんでこい!」
「自分で聞いたら? 娘さんなんでしょ?」
言いづらい内容なのはわかっていたけど、あまりにもしょうもなさすぎて正論をぶつけてしまった。
自分で聞かれたら報酬がおじゃんになってしまう。まあ大丈夫か。不安と心配の色を恥が塗り替えてしまっている。
「わかんだろ。照れくさいんだ。それにもし嫌いだなんて言われたら……」
「頑固な小心者親父。なかなか好かれなさそうだけど」
「てメェの感想なんざ聞いてねぇんだよ!」
拗らせ親父の相手をして聞き出した情報をまとめるとこうだ。
<依頼内容>
・娘の所在調査
・娘の近況報告とガンバスへの感情調査
・ガンバスへの好感度をあげる方法の調査
<手がかり>
・娘の名前はグレース
・家出したあとスラムに出入りしている
・見た目の特徴は青空と同じ瞳の色
・腰まで流れている滝のような青い髪
・世界一可愛い(情報に偏見があると思われる)
「それじゃ、手足がないと動くのもままならないから」
「つけてやるよ。義足と義手を」
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