05残るか去るか
さて、ヤンたちが小屋から少しはなれた会場で公演の準備をしている間に奴隷たちの錠を全て外した。
床や壁に火をつけると煙が天井を覆い尽くした。
檻からでるものもいれば、諦めた様子で火を眺めるものもいる。
そして、僕のとなりには一匹の犬。
「頼んだぞ」
「ワン!(いつでもいいぜ!)」
潜伏の2日間で奴隷犬を手懐けていた。感情の色を読み交渉した。檻から出してやる代わりに街まで運んでくれと。
人外との交渉は思ったより難航した。
執務室で確保した食料を手土産に交渉をはじめたが犬は不愉快そうに鼻を鳴らした。
僕は『足りぬわ』と言われたような気がしてどんどん食料を運んだ。
そして気づいた。
犬にパシられている。
人間の奴隷を辞めるために犬の奴隷になっていては本末転倒。
しかし、犬はさらなる食料を要求してきた。
コイツ足元をみているな。僕、足ないけど。
感情の色が見える特技をつかい考えた。
僕は目の前で食料をたらふく食ってやった。
なるべく美味しそうに見えるように。
数分でかたがついた。
檻からの脱出とソーセージネックレスを提供する代わりに小屋から町までの送迎を約束し、固い握手を交わした。
そして今、僕は犬の背に乗り、首に巻かれたソーセージネックレスに左腕で抱きついている。
あと少しで壁の中にまで火がとおる。
そうなれば体当たりで脆くなった壁を破って脱出だ。
はやく、はやく焼けてくれ。
心臓の鼓動が僕を急かすがまだ動けない。
誰かがくる前に。
「ハルクお前の仕業か」
怒りのこもった低い声が僕の心臓を跳ねあがらせる。
肩で息をするヤンが僕に声をかけたのだ。
身体中火傷まみれで膝に手つきなんとか立っている状態。
横に広い体型ではここまでくるのにかなりの体力をつかったはずだから無理もない。
「ヤン様。いや……ヤン。僕は奴隷を辞めるよ」
「なにを勝手な、お前はワシの所有物ぞい」
「だから強硬手段をとっているんだよ。あなたは『いいよ』なんて言わないだろうから」
まだ壁を破れない。会話で時間を稼ぐんだ。僕はいつでも逃げ出せると思い込ませて。
「あたりまえぞな。ここに残れ」
「僕は今、死んでいないだけなんです。なにも選ばず、なにも知らず、なにも得ていない」
潜伏しながらも僕は考え続けていた。
「生きながらに死んでいるんです。僕は本当の意味で生きたい、生きてみたいんだ!」
「それがお前の目的か。それならここに残った方がいい。なにも知らず、なにも持たないお前が外に出てどうなる? 身体すらまともでないお前になにができるぞい? ゴミをあさり病にかかり野垂れ死ぬのが関の山ぞい」
「十分ありえる未来だと思う。でもダメなんだ」
「何がダメだと言うんだぞい。奴隷として生きてなにがダメなんだ」
「僕がなにも知らないからさ」
疑問一色に包まれるヤンを一瞥したあと、自分に諭すように続ける。
「何も知らない僕が選べる選択肢は少ないんだ。残るか去るか、どっちを選んでも死しか待っていないかもしれない。残るほうが長く生きられるかもしれない」
「そうだ。そうぞな!」
「だから、あるかわからないけど、奴隷部屋を去って生き残る選択肢を探すんだ。選ぶために選んだんだ」
左腕に力を込めると犬が床を蹴る。
部屋をぐるりと回って勢いをつける。
火はとおった。
「待て! 待ってくれ!」
「さよなら」
一撃のもとに壁は破られる。
心に絡まった奴隷の鎖を破るように、破壊された。
飛び散る火の粉と木片は、自由の門出を祝うように盛大に煌びやかに僕を飾る。
「僕は自由だぁぁああ!」
ヤンのむせび泣く声と僕の歓喜がまざりあい世界の空気が少し変わった。そんな気がした。
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