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04潜伏と火事


「よし、始めるぞ」



 急造の作戦を実行にうつす。

 まずは檻から出て身を潜める。


 奴隷部屋には幸いろくな明かりがなく、薄暗い部屋は隠れるのに都合がいい。

 檻の他にはショーの道具が乱雑に積まれている。

 手足が欠けた小さな身体をすき間に押し込むのは容易だ。


 しばらくしてヤンたちが不安の色と小さな明かりを抱えながらやってきた。

 かなり遅かったが本当になにをしていたんだろうか?



「あー、クソやっちまったぞい」

「そんなことよりハルクをぶっ殺してよ!! 俺にナイフを突き付けたんだよ!!」

「罰はたっぷり与えるぞい。片目をくりぬいて踏み潰してやる。でも殺すのは商品価値がなくなってからぞい」



 さあ気づけ。



「あれ? 大変だ父上! ハルクがいないよ!」「そんなバカな、あの人形が逃げ出すなぞ……なっ、鍵がっ、外されている!」


 檻の隅まで明かりで確認しようと、いつもより速い動きで明かりを持ち上げ奥へと進むヤン。


 よし今だ。


 希望をつかみとるように前方の床に手を伸ばし商人の執務室へ向かう。

 音を立てないように気を遣いながらも素早く動く。


 執務室には火がある。

 煙草に命を吹き込むために使われるマッチが。

 今回は僕の命のために使う。


 商人の驚く声が響くなか左腕で胴を引きずり目的の部屋へたどり着いた。

 執務室には何度もきたことがある、主に罰を受けるときとヤンの自慢話を聞かされるときだ。


 入り口からもっとも遠い壁を背に作業机がおかれている。もちろん座って作業するために一脚の椅子もある。



「マッチは机の上か?」



 椅子につかまり机まであがる。



「よしマッチがあった。っとあれは……」



 しかし、いつもの様子とは違う。

 広い机から見えるのは金庫とミミズが這ったような線で描かれた絵。

 着替えを含めた仕度をするためにクローゼットや水桶がある。これはいつもどおり。


 異常なのは部屋の隅によせられた麻袋だ。

 次の行動に移りたかったが、やけに麻袋が気になって中をのぞいてしまった。



 ああやっぱり。


 袋には息をしていないローが入っていた。

 奴隷の死体なんてなんども見てきた。珍しくもないが今回は特別だ。ステージでの僕との絡みが原因だろうから、そしてヤンたちが奴隷部屋にくるのが遅くなり、僕が脱走の準備ができた理由だから。


 ごめんよ。

 なんの意味もない謝罪は僕の存在と同じで、誰にも知られることはない。


 必要なものを手に入れた僕はまた身を隠す。

 奴隷部屋はヤンたちがひっくり返しているだろうから、今は戻らずクローゼットの隅で投げ捨てられた衣類を被り息を潜める。



 次の動き出しは明後日、ショーの最中だ。







「いったいハルクはどこへいったぞい」



 結局ハルクを見つけられないまま、公演日が来てしまったぞい。2日間探しても見つからなかったが扉の鍵は閉まっていた。まだどこかに潜んでいるはずぞい。

 ローも手違いで殺してしまったし……。


 いやいや、たかが奴隷2匹。いなくなっても公演に問題はないぞな。適当な奴隷に裸躍りでもさせて急場はしのぐ。ハルクを見つけ次第ぼろ雑巾になるまで使ってやるだけぞな。



「そうだ帰ったら煙を焚いてあぶり出してやるぞな! ワシって天才。奴隷なんぞ結局は虫と一緒ぞい」

「ヤン様! 報告が!」



 気分が海の底まで沈んでいるのか、顔を深海のように青くして近寄る手下を見るによからぬことが起きたらしい。


 奴隷を逃がしたなどと言ったら賠償としてコイツを奴隷にしてやるぞな。



「なんぞな。公演の準備で忙しい、さっさと奴隷どもを連れてくるぞい!」

「それが! 奴隷部屋から火がでています!」

「なにぃ!? すぐ魔法使いの手配をするぞな!」

「もちろん手配済みですが火の勢いは衰えず中の奴隷は全滅かと」

「なっ、一匹くらい生きているはずぞな! ワシが直接確認するぞな!」



 さすがに全ての奴隷が焼け死んだとなると痛い。

 会場の裏手にある奴隷部屋から絶望を孕んだ黒煙が立ち上っている。



「そんなワシの奴隷が!!」



 奴隷部屋を抱く炎の大きさは想像を超えるものだった。駆けつけた魔法使いたちは水を浴びせている。いずれは火も収まるだろう。しかし、それではワシの奴隷が全滅。



「お前中に入って奴隷を連れてくるぞな!」

「ヤン様、さすがに無茶です」

「黙って言うことを聞くぞな!」

「私はあなたの奴隷ではありません。ここは消火を待つべきかと」



 これ以上の問答は時間の無駄。下手を打てば手下まで辞めかねない。商人としての勘が警笛を鳴らしている。



「もういい! ワシがいくぞな!」


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