17交渉と友好
太陽が真上にきたころ、足元の悪い山道を進んでいると僕の体力のなさを実感する。
一歩進むたび汗とともに気力が滴り落ちる。
師匠の杖を羨んだ僕は道中で拾ったを杖代わりに使った。
師匠に頼み込んで休憩も挟んだが息が整うことはない。
義足の付け根に痛みも走り出してくる。
それほどまでに体力がなかった。
見世物ショーでは日陰の下でほんの短時間身体を動かしていただけ、持久力といった力は僕に備わらなかったようだ。
「師匠はなんでそんなに元気なの?」
「なんでだろうなぁ」
山に登りはじめてから一度も疲れたようすを見せない師匠はハゲ頭をかき考える。
「お、そういえば癖になって忘れとったがベタ足で歩くと楽だな」
「ベタ足?」
「裏っかわ全部で地面を踏むんじゃ」
足を抱えた師匠が指さす、くつの裏はほぼ均等にすり減っている。
試しにベタ足で歩くと少し楽だと感じる。
疲労で足元ばかり見ていたけど師匠が歩く姿を観察すると他にも僕と異なる点があった。
歩幅は小さく。
静かに着地している。
身体もブレずにまっすぐ綺麗な姿勢だ。
「でもやっぱり根本的な体力強化は必要だな」
「お、あったぞ」
木々をかき分けて目前に広がるのは、先端が渦巻いた植物の草原。
ギルドの紙に描いてあったものが視界を埋め尽くさんばかりに群生している。
「すごい……」
「今年は豊作じゃの。さっさと袋に詰めてしまえ」
乱暴に投げられた袋を手に植物を引っこ抜くと背後から鉄拳がとんできた。
「バカタレ。茎と葉だけでいいと書いてあったろ」
「だから読めないんだってば」
文字の勉強をしながら採取を終えた僕たちは山を下る。
ギルドにつくころには陽が落ち空に天幕がかかっていた。
無言でカウンターに植物を置くと、受付がダルそうに仕分けて代わりに硬貨を差し出しす。
銀貨1枚と大銅貨2枚。
「どうやって分けるの?」
「お前さんのお守りで今日は時間がかかったからの、取り分はないぞ?」
「そりゃないよ。袋に詰めたのはほとんど僕だ」
「ワシひとりなら2往復できた」
「でもしないでしょ」
平行線。
僕も収入ゼロじゃ飯が食えない。
そしたらまた足を引っ張ってしまい負の連鎖だ。
「僕も体力がつけばもっととれるようになる。永続して6割は師匠の取り分にする代わりに、今回もそのルールでいくってのはどう?」
「なら9割だな」
「7割で」
「8割じゃ」
「8割の銅貨切り捨て」
「まあまあの条件じゃな」
熱い議論の結果。
師匠が銀貨1枚、僕が大銅貨2枚の取り分となった。
将来を考えると8割はかなり損だが、今回の仕事振りは10割もっていかれてもおかしくない。
今回の交渉はこれでいい。
これで今日のパンが買える。
白パンが食べたいけど、節約のために固い黒パンで我慢しよう。
そんなこんなで1ヶ月。
往復しても身体が痛くならなくなった。
2ヶ月目。
師匠の歩き方を観察しているうちに体力がついたのだろう、2往復ができたときは成長を感じたものだ。
あと日の稼ぎが大銅貨4枚になった。
3ヶ月目。
師匠は物知りで、他の植物のことや山に住む魔物のこと、少し字の読み方も覚えた。
教えるのに慣れていない師匠が禿げた頭を捻りながらなんとか説明する姿がおもしろくて、僕は勉強の時間が楽しかった。
照れて黙るから師匠にはいわないけど、教えている間は師匠も幸せの色に包まれていることが多い。
僕が理解したときや、なにか上達したときは特にだ。
4ヶ月目。
草原に通いつめて全体の3分の1を採取した。
「今日でこの草原は最後じゃ」
「え、まだいっぱい生えいてるよ?」
「バカタレ。来年と再来年の分を残しとくんじゃ」
「なるほど」
最後の一掴みを袋に押し込み帰り支度をする。
採取の手際も良くなり、1日で大銅貨8枚を稼げるようになった僕はついに白パンの購入を決意。
幸せに浮かれていたのかも知れない。
楽しみを胸に浮かれていたのかも知れない。
「明日からは別の植物じゃ。最近ダンジョンから冒険者が帰ってこんことがあるらしいから念のため離れた場所の採取をするぞ」
うっすら笑う師匠は幸せの色を浮かべている。
僕の視線に気づいたのか師匠に目を合わせ質問された。
「お前さん、ワシといて楽しいのか?」
「うん。師匠はいろいろ知っているしね。話していて楽しいよ」
「そうか」
耳を赤くする師匠は褒められ慣れていない。
そのまま師匠のうしろ姿を眺めながら、いつもどおり下山していると師匠が静かに叫んだ。
「伏せろっ。……不味いなゴブリンじゃ」
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