16泥と紙
「まあ、お前さんも食え」
必ず生きる手だてをつかむ意思とともに、手渡された赤い果実をしっかりつかむ。
甘い果汁が喉をとおるとジンジンと脈動していた痛みがひいていく。
果汁に癒やされて冷静になると疑問が浮かぶ。
「いつも食料を盗んでいるの?」
「そんなわけないじゃろ」
本格的に師匠選びを間違えたようだ。
「泥棒なんて危険な方法はやらん。言ったじゃろ? 『ワシはお前さんを利用する』って」
「そうだったね。じゃあいつもどんな仕事をして稼いでいるの?」
「へっぴり冒険者じゃ」
「冒険者か。話に聞いたことはあるけど危険なんだよね?」
日常的に命を危険にさらすことは極力避けたい。
心を生かすことを優先はするが命をぞんざいに扱いたいわけではない。
「危険かどうかはお前さん次第じゃ」
「どういうこと?」
「冒険者の仕事は掃除から魔王退治なんて呼ばれるくらいに幅広い」
「受ける依頼の危険度によるって意味?」
「半分はな。もう半分はさっきの泥棒もワシならもっと楽にやれたって話じゃ」
実力次第で安全圏にもっていけるってことか。
イレギュラーや本人の調子によって大きく変動しそうだ。
「依頼を吟味して状況観察や下調べ次第で安全に冒険できるってことか」
やっぱり仕事なんてないじゃないか。
有職者は身体能力が向上するうえに、技能みたいな特殊な力もある。より安全に冒険できるし、わざわざ無職にやらせる必要なんてない。
「無職が受けられる仕事なんてあるの?」
「あるさ。無職には無職なりのやり方がな」
ニヤリと笑う師匠は自信に満ちた色をまとい歩きだした。
「どこへいくの?」
「ギルド」
「ギルドって依頼を受けるところだっけ?」
「そうだ。それにしてもお前さん元奴隷のくせによく物事を知っておるの」
「あぁそれは見世物ショーのひとつに有職者から教えを乞うってコーナーがあったから。無職はゴミで有職者はすごいって、自己肯定感を高めて気分をよくしてもらうコーナー」
「なるほど。結果的に役立っていてよかったの」
内容を聞いて興味を失ったように歩みが速くなった。
数分雑談をしながら歩くと僕たちは建物に入った。
木でできた建物は床中染みだらけで、所々にへばりついた泥がどんなものでも受け入れる冒険者ギルドを表しているようにみえた。
泥で作られた足跡が一番多いところの壁には大きな板があり、両手ほどの大きさの紙が何枚も貼り付けられている。
「今日はこれだな」
「なにをしているの?」
板のすみに貼られた紙は、他の紙と違い整然とならんでいる。
そのなかでひとしきり目を泳がせた師匠がひとり納得し、踵を返そうとするので僕は即座にとめた。
「仕事を選んだ」
「どんな?」
「一番右下」
「僕、字を読めないんだ。意地悪しないで教えてよ」
「ひぇっひぇっひぇ! 物事を知っていても文字は読めんのか。普通逆なんじゃがな。お前さんおもしろいの」
なにが楽しいのか、お気に召したらしい。
「仕事の内容じゃったな、薬草取りじゃよ。対象が暑い時期によくとれる、だから選んだだけ」
「この隅の紙しかみていないのはなんで?」
「できそうな仕事をワシが隅に集めているからの、勝手に。他は見んでええ。危ない依頼や技能がないと割にあわん依頼じゃからの」
となると字を読めないのは結構困りそうだ。
重要な単語を優先的に覚えていこう。
「じゃ街をでて山にいくぞ」
目を見て話してくれる程度には少し優しくなった師匠が僕を導くように外へ視線を向けた。
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