12同等の条件
さて、ガンバスが有利なら手を貸して恩を売りたいがナイルの強さも未知数。
今はまだ手をだせない。
「オヤジ。ナイルの職業は交渉人よ。嘘を見破るの。そして」
「おっと。俺の秘密を明かすなら『お前の秘密も明かしてもらう』」
「かまわない。私の職業は『薬師』。技能は薬配合の効率化と効果増強」
グレースがべらべらと自らの職業について語った。
「この条件付けこそが交渉人の技能よ。相手の言動に対して同等の条件を強制するの」
へぇ~、やっぱり職業があるとないとでは全く違う。
生き残る難易度がグッと下がる。
なにもできない『無職』の立場がないのは至極当然の現象だ。
「グレース。たっぷりお仕置きしてやる。おい魔導具職人『俺に危害を一発加えるたびに俺の攻撃を一発受け入れてもらう』」
また条件付けをしたな。
これでガンバスは手をだしづらくなった。
しかもガンバスが気づいているかはわからないがこれは罠。
「関係あるか。俺の娘に手をだす輩は許さねぇ!」
怒りの爆風に背をおされ突撃するガンバスに対して、腕を盾にナイルは笑う。
怒りの乗った衝撃は上手に吸収され弱く鈍い衝撃に変わる。
「これで一発だ。死ねぇ!!」
そう一発は一発。
ガードをしようが掠ろうが一発。
しかし問題はナイルの攻撃に制約がなかったことだ。
大きく振り上げられたこん棒はガンバスの頭を押しつぶす。
条件付けの効果だろう。
ガンバスは避ける素振りすら見せなかった。
「おら、おら、おら、おらぁああ!」
怯んだガンバスになんども追撃が浴びせられる。
子育てを誤ったガンバスを責めるように、今の状況はお前が原因だというように、なんども執拗に降り注ぐ。
「やめて!」
「おっと危ない危ない。それはなんの薬だ?」
ナイルに向かってグレースが青い液体を放つが簡単に躱されてしまう。
しかし、文字通りサンドバック状態だったガンバスは命からがら生還する。
「俺の娘はこんな地獄にいたのか、いや地獄に向かわせたのは俺か」
「オヤジ。もう逃げてよ。私は大丈夫だから」
「いっただろ死んでも守る」
寄り添う親子を見下し快感の色を濃くするナイル。
感極まったのかスラム中に届くような声を放つ。
「弱者をいたぶっているこの感覚。最高だ! そうだ、そうだよ! これなんだ! 俺が求めていたものは! 俺はちゃちな交渉人として使われる人間じゃない。使う側、支配する側の人間なんだ! はーはっはっは!」
なるほどスラムに落ちた理由がわかった。
となれば付け入る隙はありそうだ。
「盛り上がっているとこ悪いんだけど、助けてほしい?」
「なんとかできるのか?」
「たぶんね。でも」
「――――追加報酬だろ。かまわんグレースを助けてくれ」
「そんなガキが俺の相手をするのか? 俺の技能を聞いただろ? 勝つのは不可能だ。それともお前はバカの類いか?」
「詭弁がすぎるね。僕には通用しない」
グレースは『同等の条件』と言ったが正確には違う。
おそらく『相手が同等だと思った条件』だ。
でなければ、かすり傷と致命傷が同等のはずがない。
感情を色で読める僕なら同等条件でないと見抜ける。
それに僕はある意味特別だからね。
「なら条件をつけてやろう。『危害一発につき、俺の攻撃を一発受け入れてもらう』」
お気に入りなのかな?
ガード体勢のまま満面の笑みを浮かべるナイルに近づき左ストレートをいれてあげる。
当然ダメージにはならない。
「はーはっは! 条件は満たされた! 死ねぇ!」
まとも振り上げられたこん棒。
技能によって避けることすら許されない一撃が――――空を切った。
肩透かしを食らったナイルの心情をあらわすように間抜けな一撃は行き場を失う。
「今の条件、同等じゃないよね? 意味ないよ」
「くっ、なら条件を変える。『お前から受けた直撃一発に対して、攻撃を一発受けてもらう』」
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