11父と娘
【グレース視点】
あぁいったいどこから間違えたんだろう。
ナイルに取り入ってから?
プレゼントを売ってから?
オヤジに助けを求めようとおもってから?
今日のお仕置きはいつもより長い。
もう3時間つづいている。
こん棒には私の血がにじむ。
「お前は俺の言うことを聞いていればいいんだ!」
酒の匂いが鼻につく。
「逆らうな! 俺がボスだ!」
なんとかしなきゃ。殺されてしまう。
絶望から身を守るように振り下ろされるこん棒に手を向ける。
すると伸ばした手をすり抜け、絶望は私の頭部へ舞い降りた。
ゴッと鈍い音がした。
尻餅をつき、やがて倒れこんだ。
残酷な現実をあらわすように冷たい床が私の体温を奪う。
意識が朦朧とする。
また振り上げられたこん棒は私を狙い、落ちてくる。
ほんとうに死んじゃう。
助けて。
誰か。
助けて。
おとうさん。
また鈍い音が響いた。
でも痛みはない。
生きてもいる。
見上げると子供のころによくみた背中があった。
決してこちらを振り向くことがない仕事好きの背中。
「遅くなってすまねぇ」
「オヤジ」
オヤジへの疑心が心を覆うように、部屋に煙が充満している。
いつの間にか床に転がっていた拳大の玉から煙がでているようだ。
義肢の少年が呼んだの?
笑っているように見えた少年はすぐに煙で見えなくなった。
「帰るぞ」
「ひとりで帰れよ。これは私とナイルの問題なんだ」
「俺もずっとそう思っていた。俺が死んだときにお前が苦労しねぇように。お前を強くしてやらなきゃと直接関わらねぇようにしてきた」
なによそれ。
なんなのそれ。
「嘘よ。都合のいい言い訳しないでよ! オヤジは大好きな仕事をしてればいいじゃん!」
「…………」
ずっとため込んできたものが弾けた。
なにか他の目的があるだけで私を見てなんかいない。
必要以上に問題を抱えたくないだけ。
今反論できないのがなによりの証拠よ。
私の発言を受けてか呆れたように、義肢の少年が口を開く。
「はぁ、ガンバスは仕事嫌いだよ」
「え?」
「お、俺から娘との時間を奪う仕事が好きなわけねぇだろ。6歳のころ貧乏だっていじめられていただろ? だからバカにされねぇように髪止めを作ったんだ。覚えているわけねぇか」
知ってたんだ。
私がいじめられてたって。
ちゃんと見てたんだ。
「それでもいじめがとまらねぇから。もっといいもん作ってやらねぇとって、腕をあげるために仕事に没頭した。稼ぐために没頭した」
申し訳なさそうに、自分を責めるようにオヤジはつづけた。
「……でも大失敗だ。お前がこんな恐ろしい場所で、まだいじめられているんだから。ハルクが教えてくれてやっと気づいたんだ」
すれ違いだったんだ。
オヤジはオヤジなりに助けてくれてたんだ。
なのに私ってば。
「遅くなった、遅すぎた、取り返しがつくかわからねぇけどよ、今は任せとけ」
私に向けられた視線がはずれる。
子供のころに求めたもの。
ずっとほしかった言葉が背中越しに届く。
「おとうさんが死んでも守ってやる」
心にかかっていた靄が薄くなるように部屋に充満していた煙が晴れた。
表情を歪めたナイルの視線が私を刺している。
「お喋りはおしまいか? グレー」
「――――ガキは黙ってろ!! いいかウチのグレースは繊細なんだ! ガラス細工を扱うみたいに丁寧に接しろ!いやお前みたいな不純物はグレースに相応しくねぇ。いま俺が取り除いてやる」
「『魔導具職人』風情が調子に乗るなよ」
そうだ、ナイルと闘ってはダメ。
『交渉人』は下手な戦闘職よりも――強い。
「私はガラス細工なんかじゃない。鉄みたいな堅物オヤジの娘なんだ。鉄鉱石くらいがお似合いよ」
「バカいえ、お前はどんな宝石だって腰を抜かすくらいのガラス細工だ」
「クソ親子がキモいんだよ!!」
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