10アザと失敗
義手の少年が去ったことを見届けて部屋の奥で私はひとり息をついた。
「グレース!」
私を呼ぶ声は攻撃的でトゲトゲしていて、私の身と心を震えさせる。
声のもとへいけば苦痛がまっている。
いかなければ苦痛は力を増して歩み寄ると知っているから従順に下僕のように従う。
「ナイル。違うのあの子は」
「――――あいつ俺に嘘をつきやがった」
私の意見に耳を向けないまま義肢の子供に悪態をつくナイル。
職業『交渉人』のナイルに嘘は通用しない。
嘘を嘘だと確実に見抜く力があるらしい。
「俺を見にきたと言っていたがあれは嘘。となれば別の理由があるはずだ……いやだがいいか俺を純粋な人だと本気で言ってるやつが俺に刃向かうはずもない」
自己解決したナイルは凶悪な視線を弱い私に向ける。
「問題はお前だグレース。他人を家にあげるなといってあるだろう? バカなのか? それとも俺をバカにしてるのか?」
質問が投げられるがこれはキャッチボールではない、回答は必要とされず、ナイルが満足するためだけの質問。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
「お仕置きだ」
こん棒を手にするナイル。
ああまた始まった。
またアザが増える。
もうアザのない箇所のほうが少ない私の身体。
私の心の形さえも変えようと、なんども執拗にこん棒が振るわれる。
痛い。痛い。痛い。
もうやめてよ。
また思いだしてしまう。
思い出したくないのに。
『痛いよ。やめてよ!』
14年前――――私がまだ6歳だったころ。
『へへへ、貧乏人グレースが泣いたぞ!』
『どうして私を叩くの?』
『なんでだろうな? お前を見てるとイライラするんだ。ずっと下を向いていて気分が悪い』
『ごめんなさい……』
私はいじめられていた。
理由は様々だったけど、暗いとか貧乏、汚いとかがほとんど。
そういわれるたび現実から目を背けるように視線を落とす。
『下を向くなっていってんだろ!』
『お前の母親も下ばっかり見てて魔物に食われたんじゃないか?』
『違うよ! 私のお母さんは病気で』
『――――うっせぇ!』
誰かに助けてほしかった。
傷ついた身と心を優しく包んでほしかった。
『おとうさん……たすけて』
消え入るような声は目の前のいじめっ子たちにすら届かない。
いじめられていることは秘密にしていた。
必死に働くオヤジを心配させたくなかったから。
でも、もう限界だった。
今日は秘密を打ち明けよう、助けてほしい。
今にも崩れそうなボロ小屋に帰る。
『おとうさん……』
『いま忙しいんだ。待っていろ。待っていろよ』
助けを乞う前に制止された。
2日が経つころ、オヤジは無言で髪飾りをわたしてきた。
助けてもらえなかったけど、嬉しかった。
忙しくて会話もあまりないしお金もないからプレゼントなんて初めてだった。
『待っていろ。待っていろよ』
そしてまた待たされることになった。
もらった髪飾りをつけ、久しぶりに明るい気持ちで街へでる。
今日はいいことがありそうだ、なんて勘違いをしながら。
『よぉ、グレース』
『ひっ』
いじめっ子たちには容赦なく私を叩いた。
そう、なにも変わらない日常は繰り返される。
『なんだこいつ。貧乏人にしてはいい髪飾りじゃん』
『だめっ、これはっ』
とっさに手で髪飾りを守るように隠した。
『だめっていわれるとなあ』
『とまらなくなるよな、ひひっ』
原形がわからないくらいに踏み潰され、同時に私の心の大事な部分に亀裂が入った。
帰るとオヤジは新品とはいかないが服をくれた、翌週はお風呂にはいれた。
でも話を聞いて助けてはくれなかった。
もういい、オヤジに対する諦めの気持ちは突然現れた。
私は大事にとっていたプレゼントをすべて売ってお金にかえた。
そして、私をいじめるグループとは別のグループに取り入った。
『やあグレース今日も持ってきたのかい?』
『うん。昨日またいじめられたの。ナイルならなんとかできる?』
『もちろんさ』
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