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見極め

 サンはさっきのシェイクの言葉を思い出した。シェイクは確か、魔獣には独特の魔力があると言っていた。その時にシェイクは一瞬だったが、目を瞑っていたような気がした。

 つまり魔力の感知は目を瞑ると可能ということだ。シェイクにできてサンにできないはずがない。サンは目を瞑り、空気中に漂う魔力を感じ取ろうとした。

  

 その瞬間、目を瞑っているのにも関わらず、目の前に多数の紫色の線が出現する。

 それは規則性がなく、周囲を動き回っている。まるで生き物のようなその線は魔力の源だ。

 

 それは血管のように様々な生き物に複数入り混じっており、これは体外に魔力を排出する時に使われる機関なのだろうと思われる。

 そしてその魔力の源の気配を一番多く感じるのが、あの封印があった場所だ。恐らく、そこに奴等の群れのアジトがあるのだろう。


 サンはアイスを抱えながら、木の枝を蹴り渡ることによって空中での移動を可能にする。

いきなり行動に出たサンをアイスは驚いたように見つめる。

 

「え、ちょっと! サン、どこに行くつもりなの?」


「奴らのアジトの居場所が分かったんだ。たぶん、あの封印がある場所だよ!」


 その時サンは話に気を取られ、木の枝を踏み外してしまった。その瞬間、無数の魔獣達が地面に落ちたサン達を狙って飛びかかろうとしてくる。

 しかし、それは第三者の防衛によって防がれる。


「ライイース!」


 突然、雷の耳をつんざく音があたりに響き渡る。聴力に特別優れているわけでもないサンでさえ、鼓膜が破れるかと思うほどの、騒音だ。当然、聴力に優れている魔獣がその音を聞き、平常心を保てるわけがなかった。音にやられた魔獣達が直後地面に倒れ込む。倒れ込んだのは前方の魔獣だったので、後ろから向かってきていた魔獣達は仲間の魔獣に足を取られドミノ倒し状態になる。

 その状態では形勢を立て直すのにだいぶ時間がかかるだろう。


 それをしたのは他でもないシェイクだ。シェイクは魔獣の体を踏みつけ、クッションにすることで木から地面に器用にも降りてきた。

 

「封印の場所にいるのは確かなのか?」


「間違い無いと思う。大量の魔力を感じるんだ」


「信用できるかわかんねぇけど、ほかにあてもないしな。その封印の場所に行ってみようぜ」

 

 サンは頷き、封印の場所に向かおうと足を踏み出した。一度しか行ったことはないが、魔力の感知ができるようになったいま、場所を覚えている必要はない。

 そんなサンをアイスは声で引き止める。


「ねぇ、そろそろ私を降ろしてくれない?」


「あ、ごめん!」


 木登りをするときからずっとアイスを腕で抱えぱなっしであったことに、サンはようやく気づいた。対して重くもないため、なんの苦にもなっていなかったのだ。

 すぐさまアイスを地面に降すことで、両腕が自由になる。これで戦うのには困らないだろう。


「よし、じゃあ早く行こう!」

  

 サンの合図と共に、三人は全速力で封印の場所に向かった。かなりスピードを上げているが、例の姉弟はきちんとついて来れている。

 やはり、この姉弟の運動能力はずば抜けている。やがて隣に並んだシェイクから疑問が投げかけられる。


「なぁ、サン! あいつらの倒し方は分かったのか?」


「うん! 俺たちが倒していたのは多分分身だ! 本物は別にいるんだ!」


「分身? それって確かなの?」


それを少し後ろで聞いていたアイスからも問いかけるようなセリフを言われる。

 サンはまだ凍てつくような視線を感じている。これは常に一つだけだ。しかしこれは言うほど、根拠にならないだろう。現に、二人は凍てつくような視線など感じていないようだ。それにサン自身もこれだと言える理由は持ち合わせていない。どちらかと言うと……。

 

「勘だ!」


「「勘!?」」


 サンのあまりの発言に、二人が思わず同じリアクションをかます。実際、サン自身も戦闘での勘は当てになると思っている。今まで何度もこの勘で生き抜いてきたのだ。

 そこまで思ったところで、サンは不思議な感覚を覚えた。サンが戦闘をするのは今日が初めてなはずだ。


 だと言うのに、なんだか懐かしい感じを覚える。恐らく、サンは記憶を失う以前にも戦いを生業としていたのだ。

 その時、サンは自身に心の中だけで問いかける。


(お前は、一体何者なんだ?)


 ***


サンたちは目論見通りに、封印の場所に辿り着いていた。と、いっても封印の場所の近くにある盛り上がった小さな丘からそこを眺めているだけだ。

 辺りには木や草むらが密集しており、身を隠すのにもってこいの場所でもある。


 やはりここは奴らのアジトで間違いはなかった。その証拠に、数え切れないほどの魔獣がウヨウヨとしている。その中には他の魔獣と比べて、かなり大きな魔獣が中央に居座っている。

 他の小さな魔獣たちはその魔獣に餌を捧げている。それは人間だった。

隣にいたシェイクはそんな光景を見て、小声で怒りを募られせる。


「最近、村の人間が行方不明になっていると思ったら、奴らが原因だったか!?」


「ひどいわね。きっとあいつが群れのリーダよ。あいつを倒せば、全て解決するはず!」


 確かに群れのボスとは一見、体が大きくて真ん中にいる奴だと思うのが一般的な見解だろう。

 しかし、サンにはどうしてもあれがボスであるようには見えなかった。アイスとシェイクの意見を否定したくはないが、恐らく群れの数的にも倒すのには不意打ちしか方法はないだろう。

 

 その場合、攻撃する相手が本体ではなかったとなると、計画が覆されてしまう。

 攻撃できる相手は一体だと固定して、慎重に考える必要がある。

 

 だが、シェイクは慎重に考えることはするつもりがないらしい。既に背中の鞘から銀色の剣のつかを握り始めている。

 アイスも腰の短剣を引き抜こうとしており、ほっとおいては危険だと言うことがわかる。


 サンは慌てて、二人の肩を揺さぶることでそれを阻止する。


「え、なに?」


「おい、サン! 邪魔んすんなよ。今から僕が魔獣のリーダを叩っ斬るんだから!」


 アイスには対話の余地があるようだが、シェイクは聞く耳を持たない。

 確証はないが、あいつは敵のリーダではない。


「待て、あいつはリーダじゃない!」


「え?」


「じゃあ、誰がリーダなの?」


 サンはアイスの問いかけに答えようと、群れの中に視線を彷徨わした。そして群れの端の方に人一倍小さな魔獣がいるのを確認した。

 その魔獣は体も痩せこけており、一見群れから見放されているように見える。

 

 しかしこいつらは分身であることがその推測を否定する。分身であるこいつらの生まれてきた理由はその攻撃能力にある。わざわざ、弱い個体を生み出すことは考えられない。

 分身の失敗作という考えもあるが、その場合その分身を残しておくメリットがない。


 わざわざ大きな個体を生み出したのも、それがリーダだっと錯覚させ、自身の安全を確保するためではないかと考えられる。

 その一番の証拠に最初に森の入り口で見た魔獣は草むらに身を潜められるぐらいに体が小さかった。


「あいつだ!」


 サンは奴らに気付かれないように、小声でその魔獣を指さした。


 その瞬間、第二の魔獣戦が幕を挙げようとしていた。


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