魔獣の本体
サンたちは村で唯一、無事であったシェイク達の家で話し合いをしていた。村の子供たちが寄ってきてしまったため、家の中まで移動したのだ。
アイスとシェイクの家は村から離れた場所にあった。人がいなかったこともあり、魔獣の破壊の対象にはならなかったのだろう。
考えてみれば、シェイク達は二人暮らしのようだ。今まであまり気にしたことがなかったが、二人に両親はいないのかもしれない。
どちらにせよ二人から話し始めない限り、聞かない方が賢明であろう。
先程から机の周りをウロウロとしているシェイクは、作戦を考えているようだ。
そしてようやく、いい作戦を思いついたらしい。顔が明るくなる。
「よし、これでいける」
「なにが、いけるんだ? 正面から叩けばいいだろ?」
「それじゃ、面白くないだろう? あの森には裏口があるんだ。そこから魔獣の森に侵入すればいい!」
シェイクが言っている森の裏口というのは初耳だ。村でもそんな話は聞いたことがない。
裏口というぐらいなのだから、あまり人には知られていないのかもしれない。
それよりもサンには最初から気にかかっていることがあった。
「さっきから倒す話ばっかりしているけど……。あの魔獣の封印は誰が解いたんだろう?」
そう、それが一番の疑問だ。見てみた感じ、あの封印は内側から開けることができるとは思えないし、時間制限があるようにも見えなかった。
考えられることとしては、誰かが封印を解いたということだ。普通に考えたら村の中に犯人がいることとなる。
シェイクはサンの話に消極的な姿勢を見せる。
「うーん、そんなこと考えなくていいんじゃね? 僕にとっては手柄を取ることの方が大事だし……」
「どうしてそんなに手柄を取ることばっかり考えるんだ? なにかご褒美でも貰えるのか?」
先程からシェイクは手柄を取ることばかり考えている。たしかに名誉や名声も褒美となりえないことはないが、その他に具体的なメリットがあることはたしかだ。
「この村は閉鎖的なんだ。村から出ることも許されない。僕たちは死ぬまでここにいるしかない。しかし、手柄を立てたらきっと村長は僕たちのことを外に出してくれる! 僕たちが弱くて出せないってんなら、僕たちが強いということをあの村長に思い知らせてやればいいんだ!」
シェイクはどうしてもこの封鎖的な村から抜け出したいらしい。シェイクぐらいの腕なら、一人で勝手に出て行ってしまうこともできるだろうに、わざわざ許可を取ろうとする辺り、真面目な性格なのかもしれない。
その場合、アイスは一人になったしまうだろう。アイスはこのことを知っているのだろうか。
「お前ならわかるだろ? お前は外の世界から来たはずだ! 僕は外に出たらやりたいことがあるんだ!」
シェイクの目はいつにもなく、赤く燃え上がっている。何を言ってもこの考えは変わらないだろう。
「協力はするよ。恩返しもしたいしな、俺もここから数日したら出て行こうと思っていたところだ」
「ああ、そんなこと言ってたな。ユースタスの地は広いから、故郷を探すのって難しいと思うけどな……」
「ユースタス? それがこの国の名前?」
「ん、その通りだ。ここはユースタスの一番南の国だよ。」
初めて聞くはずのユースタスという言葉。しかしこの言葉にはあまりいい印象を抱かない。
何故かは分からないが、自分が住んでいたのはユースタスではない気がする。それにサンは故郷を目指して、旅をするわけではない。しかし、世界樹の話などをするとまた笑われそうなので、シェイクには旅の行き先を伝えない方がいいだろう。
「その隣にガーディールっていう国があるらしいんだけど、こんな辺境の地にはいちいち隣国の話なんてもんは、入ってこないからな。」
シェイクは家の壁に吊るされていた銀で出来ている剣を、背中に背負った。小さな体に大きな剣を背負う姿は、かなり不釣り合いのはずだが、シェイクにはピッタリ似合っていた。シェイクはその剣をチラつかせると自慢げだ。
「いいだろ? この剣は、姉ちゃんが買ってくれたんだぜ。ほら、早く出発しようぜ!」
シェイクはドアノブに手をかけ、家の扉を開け放つ。そこにいたのは、シェイクの姉であるアイスだった。
ずっとドア越しで話を聞いていたのだろうか、怒ったような顔をしている。シェイクはそんな姉の様子を見るなり、サンの後ろに隠れた。
まるで悪戯をするところを母親に見つかったような、そんな反応だった。
「さっきから話を聞いていれば、どういうこと?」
アイスのことだから、こっぴどくシェイクを叱るに違いないと、サンは叱責を覚悟した。
「私を仲間外れにするなんて、ずるいでしょ?」
否、この姉弟には常識が通用しないようだった。
***
「それにしても、武器を持たない状態で行くなんて危ないんじゃない? 私の武器を貸してあげようか?」
森の裏口に入り込もうとしている時、アイスが武装していないサンに対して心配するような声を投げかける。
サンはそれを断ろうと、首を横に振った。
「そんな上物を使わせてもらえるなんて、またとない機会だけど、いいよ。俺は素手でも戦える」
「サンってすごく強いもんね」
サンはそれを聞き、自分の戦闘スタイルを思い浮かべてみた。確かにかなり常人離れした戦い方だった。
それにもかかわらず、まだ実力を発揮できていない気がする。記憶がないが、わかる。昔の自分はもっと強かった。
その刹那、前方を警戒して歩いていたシェイクが何かを感知したのか、大急ぎで駆け寄ってきた。
「大変だ。魔獣がこっちに近寄ってきてる!」
「分かるのか?」
「魔獣の魔力の感じは独特だからな、すぐ分かるさ。それよりも、早く身を隠さないとやばいぞ!」
シェイクは近くにあった木を登り始めた。サンも同じ手を使ったが、客観的に見るとまるで動物みたいだ。
サンほどではないが、シェイクの木登りはかなり早い。瞬く間に天辺まで登ってしまっている。サンも隣の木に登ろうとしたが、アイスが困り始めていた。
「どうしよう? 私、木登りできないんだよね……」
「俺に捕まればいいよ」
サンはアイスをヒョイっとお姫様だっとすると、軽く上下に跳躍した。その後、サンが飛び上がったいる場所の真下にあった木の枝に着地し、緑の葉に身を隠す。
やがて数秒もしないうちに、魔獣達が到着する。クンクンとあたりをかぎまわり、敵を探しているようだ。どのみち気づかれてしまうだろう。何か策を講じなければならない。
あいつらは魔法で攻撃することはできない。つまり、必然的に近距離線を強いられる。
しかし、攻撃してもすぐに復活してしまう。サンが最初に森の入り口で見た視線は一つだけだった。つまり、魔獣は1匹であるはずなのだ。
そう考えるなら本体を叩けば、魔獣を倒すことに繋がるのだろう。
うっすらと霧がかかっているこいつらは幻影なのだ。いくら戦っても意味がない。
つまりこの無数の魔獣の中から本体を探し出さなくては行けないこととなる。