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分裂する魔獣

 サンは木の枝の上で息を整えながら、早朝の出来事を回想していた。あのあと逃げるのに必死だったサンはアイスと森の中で逸れてしまった。

 なにせ魔獣が降ってきた途端に真っ先にアイスがとんずらをこいたのが原因である。並走することが、難しかったら抱えて逃げることもできたというのに、アイスの集団行動力の低さに呆れるばかりだ。

 

 しかしサンがあっという間に見失うほどだったので、アイスはかなり足が速いのだろう。心配する必要はなさそうだ。

 むしろサンは逃げるのに一歩遅れてしまったため、大半の魔獣がこちらにきてしまったことになる。

 サンは魔獣たちが上に上がって来ていることに気づく。

 

 さっきまでかなり滑っていたはずだ。こいつらは登り方を学習し始めている。つまり知能がある程度はあるということになる。  

 サンは隣にある大木に飛び移ろうと考えたが、そこであるアイデアが浮かんだ。


(なんで俺、逃げることばっかり考えてたんだ? 別に戦ってもいいじゃないか!!)


 このままじゃジリ貧になるだけだ。サンは両手を眼前に重ね合わせるとひし形の氷塊を無数に出現させる。

 それを合図とともに魔獣たちに打ち込む。


「アイイース!!」


 無意識に口から出た詠唱を唱えると同時に、無数の氷塊が魔獣たちの顔に穿たれる。そしてそこには無惨な遺体が転がるはず……。


「あれ?」


 と、思いきや世の中うまくいかないのが人生というものである。サンが発生させた氷は全て命中したはずだった。いや、命中したのだ。 

 にもかかわらず、魔獣たちは怪我一つしていない。たしかにサンは氷が命中したのを見た。

 

 命中した途端に、霧のように魔獣の体が揺らいだのだ。そして氷は魔獣の体を通り抜ける形で貫通した。

 まるで幽霊に攻撃しているような感じだ。攻撃が当たらないではなく、攻撃が魔獣の体をすり抜けてしまうのだ。これではどれだけ攻撃しても魔力の無駄である。サンは諦めて腕を下ろした。

 

 そしてサンが諦めたのと同時に、周りの木ヶが一斉に倒れだしたのだ。倒れた木には例外なくサンが発生させた氷が突き刺さっていた。

 魔獣の体を通り抜け後ろにあった木にそれが当たったのだ。

 

 その魔法のあまりの威力に、木は耐えられなかったらしい。けたたましい音を立て続け、木が倒れていく。魔獣たちも突然の崩壊に驚いているようだ。サンはこれをチャンスと思い、左腕の下に向けた手のひらを、右手の上に向けた手のひらの上に覆う。

 そして辺りに砂あらしを発動させることに成功する。辺り一面は瞬きの間に真っ白になり、魔獣たちを撹乱することに成功する。


「攻撃は効かなくても、目眩しなら効くだろ?」


 サンは生き残った木の枝を忍びのように飛び移っていくことでその場から逃走した。


***


 サンが村に帰る頃には村はひどい有様だった。あれほど綺麗だった風景も一瞬で地獄とかす。衛兵のような格好をした男たちが倒れており、遠くからは子供の泣き声が聞こえる。

 村の中には魔獣が歩き回っており、口元は血で塗れている。そんな光景にあっけに囚われていたサンは背後から襲いかかってくる魔獣に気がつかなかった。

 サンの体はいきなり誰かに地面に突き飛ばされており、視線を彷徨わせながらも突き飛ばした人物を探ろうとする。


「よそ見したんじゃねぇよ!! 死ぬところだったぞ!」


 目に入った金髪からもしやとおもったが、助けてくれたのはシェイクだった。手には血に濡れた木刀を持っており、顔にも返り血が無数に飛んでいる。

 自身の攻撃をかわされた魔獣は怒り狂い、シェイクに牙を剥いて飛びかかる。


 シェイクは右足を軸にしてうしろにに回転することで回し蹴りならぬ、回し殴りを行なう。魔獣は盛大に吹っ飛び、付近にあった小屋に突っ込む。そのまま事切れたようだ。

 サンは地面からすぐさま立ち上がった。


「助けてくれてありがとう。でもあの魔獣、攻撃が通じないんじゃなかったのか?」


「攻撃? 魔法のことか? 魔獣に魔法は通じないぞ。あいつらは物理的に責めなきゃダメだ。あいつらは魔力で構成されている生物だ。火に火をぶっかけても勢いがおさまらないのと同じで、魔法攻撃はあいつらを強くするだけだ」

 

 なるほどと、サンは納得する。たしかに今までサンは、魔法攻撃しかしてこなかった。なんとなく武器を持っていなかったので、魔法で攻撃することを選択してしまったが、最初から物理的に攻撃すればよかったのだ。 

 そうとわかれば、話しは早い。サンは地面に落ちていた錆びついた剣を拾う。


 血がついていることからこれは、死んだ衛兵の剣だろう。その衛兵もこんなところに置いておくよりも、村の人々を救うことに使った方が喜ぶはずだ。

 サンは剣を持ちながら、自分に1番近い距離にいた魔獣に向かって駆け出す。


 もちろん魔獣も無抵抗では無い。彼らだって生きるのに必死なのだ。サンの方向に向けて突進してくる。立ち上がれば人間の身長をゆうにこすほど巨大だ。

 いくら体を鍛えているものでも、ぶつかられたらひとたまりもないだろう。サンは走りながら、魔獣に衝突する寸前に上に飛び上がった。

 

 その跳躍力は5メートルほどだ。少し力を入れて地面を蹴っただけなのにその威力は常人離れしている。当然下にいた魔獣は目が悪いのか、突然上に飛び上がったサンの居場所はわからない。

 魔獣からしたらいきなり消えたように見えたのだろう。サンはそのまま空中で一回転し、剣を魔獣の体に投擲した。ちょうど心臓の辺りをだ。


 数秒ののちに魔獣の体には剣が深々と突き刺さる。サンは着地すると身を翻し、剣を魔獣の体から引き抜いた。

 無惨に一撃にされた仲間を見て近くにいた魔獣が集まってくる。

 魔獣と戦っていたシェイクが大急ぎで駆け寄ってくる。


「まずいぞ、魔獣が怒ってる。撤退するぞ。お前が強いのはわかったけど、こんな数を相手にできるわけがない!!」

  

 幸い、まだサンたちは魔獣に八方塞がりの状況に追い込まれたわけではない。今なら逃げられる状況だ。

 しかしそれは根本的解決にはならない。サンは剣を逆手に持つとそれをブーメランのように回転させることで円を描くように投げ飛ばした。


 それはサン達を円状に取り囲んでいた魔獣の体を切り裂いていく。普通、ものというのは何かにぶつかる度に威力が削がれていくものだが、サンにはそれがない。

 桁外れの威力で剣を投げ飛ばしたからだ。少しぐらい魔獣の体を貫通しようが、威力が弱まることはない。


 やがて全ての魔獣の体を引き裂いたあとに剣はサンの手元に戻ってくる。血に塗れていたそれは掴んだ途端にボロボロに崩れ落ちる。

 ただでさえ、使い古された剣はサンの剣技に耐えられなかったのだろう。むしろ今まで壊れなかったことが信じられないくらいだ。


 そして魔獣はいなくなったかと思われた。しかしそれは誤りである。地面に倒れた魔獣たちは明らかに死んだはずであった。

 血肉と化した、魔獣たちが蠢き始めたのだ。隣にいたシェイクが信じられないというような顔をする。


「馬鹿な! あいつらは完全に息の根を止めたはずだ!!」


 怪我一つない完全な肉体に生まれ変わった魔獣たちは立ち上がると霧のように姿を消した。

 

 魔獣の襲撃はここで一幕を閉じたのである。


 


 

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