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黒との遭遇

 サンは森の中を全速力で走りながら背後を振り返る。背後からは大量の魔獣が走ってきており、逃げられているのが不思議なぐらいだ。

 サンは大木を見つけると、跳躍することでその木の枝に手を伸ばした。案の定腕はしっかりと木の枝を掴むことに成功した。


 そのまま、片手の力だけで木の枝の上に着地する。下では魔獣たちが大木に群がってきていた。下にいる魔獣はその全体が黒い霧に覆われていてはっきりとした姿を確認することができない。


 しかし、大きさや霧から漏れて見える足や手などでなんとなく姿がつかめる。恐らくこいつらはライオンのような容姿をしているのではないかと思う。立髪があるし、大きさだってボディーラインだってまんまとそっくりだ。

 息切れした体を落ち着かせようとサンは枝の上に座り込む。そしてこんなことを思った。


(なんで、こんなことになったんだ?)


***


 時はその日の早朝に遡る。昨日の約束通りに森の入り口にまできていた。警戒するサンに対して隣にいるアイスは興味深げに森の中を眺めている。

 どうやらまだ見ぬ冒険にワクワクしているらしい。意外にも肝が座ってるものだと感じる。

 

「早く行きましょう、村長さんから許可をもらったしね」


 そう、サンたちは森を調査するにあたって村長から許可をもらっているのだ。流石に無断で入るわけにはいかなく、許可を取りに行ったのだが、二つ返事でOKしてもらった。

 どうやら最近、サン以外にも村の住人が見かけているらしい。村長も気をもんでいたようだ。


「それでその機械だっけ? 取られたのは確かなの?」


「多分。風で飛んでいくような重さじゃないし、そうだとしてもあんなにすぐ忽然となくなるなんて、おかしすぎるよ」


 あの機械に関しての記憶はない。しかしかなり傷がついていたことからあれが自分にとって大事な物であることは伝わってくる。

 あれだけは絶対に取り返さなくてはいけない。サンは軽く握り拳を作る。アイスはそんなサンを横目で見る。


「大事なものなんだね、だったら取り返さなくなちゃ!!」


「ああ」

 

 サンはアイスと会話しながら変な感覚を覚える。なんだかなにかが物足りないような感覚だ。これは恐らくシェイクがいないことが原因だろう。

 シェイクは姉に行きたいとぐずっていたが、危ないという理由で置いていくことにしたのだ。置いてかれたシェイクは今のところ不貞腐れているだろう。

 

「おーい、サン!! 置いてっちゃうよ!!」


 見ればアイスはもうかなり森の奥まで進んでいた。手を振りながらサンを急かす。サンはアイスを追って慌てて駆け出した。

 どうやら封印がある場所には徒歩15分ぐらいらしい。この森はそこまで広くも大きくもないためすぐに最奥までたどり着けるのだ。しかしその間がサンにはなんとなく気まずい。

 

 商店街的なところを2人で歩いたことはあるが、こんなふうに静かな場所でふたりきっりになったことはない。会話が何も発生しないので、妙に気まずい雰囲気を味わうこととなるのだ。

 そのまましばらく2人で無言で歩いていたが、流石になにか会話を振らなくてはと、話しかける。


「それってさ、果物ナイフだよね。上手く扱えるの?」


「これは果物ナイフじゃなくて、私の母さんの形見の武器よ」


 アイスは腰の剣帯からナイフを取り出すと、銀色の刀身を見せる。たしかに近くで見ると、かなり古傷まみれである。

 長いこと使ってきた感じが滲み出ており、とてもではないが1世代でここまでの傷はつけられない。サンはそっとその刀身に素手で触れてみる。


「これ、かなりの上物だよね。特にここに埋め込まれてる赤い魔法石とかこれってかなり希少なものだし、刀身もこの触り心地だとファイアル鉱石を使用しているのかな? つかの感じも木製で作られているように見えるけど、ちゃんとアイアル鉱石をふんだんに使っているみたいだし、それにこのさやも……」


「す、ストップ! ストップ!」


 まだみぬナイフを見せられ、思わずヒートアップをするサンをアイスは止めにかかる。見ればアイスはかなり困った表情を浮かべている。

 どうやら話し過ぎてしまったらしい。自分としてはまだまだ序の口なのだが、これ以上話に付き合ってもらう必要もないだろう。サンは熱くなった心を一旦落ち着かせる。


「ごめん、ちょっと興奮しちゃって……」


「う、ううん。私の方こそ話についていけなくてごめんね。いきなり話し始めたからびっくりしちゃって、あなたって普段は寡黙だから……」


「俺ってそんなに寡黙かな?」


 アイスはサンのことを寡黙だと思っているらしいが、サンとしてはかなりコミュニケーションをとっているつもりだ。アイスは普段、お喋りなシェイクと常に一緒にいるからそう思うだけだろう。

 

「サンってもしかして、武器を作る仕事をしてたんじゃないの?」


「武器か……。もしかしたらそうなのかもな」


 たしかにひとつの武器を見ただけで素材や品質がわかるというのはかなりマニアックなのかもしれない。

 こんな細い腕で武器を作っていたとは思えないが、これだけ詳しいのだから武器に関わる仕事をしてたことは間違い無いだろう。サンは自分が喜んでいるのを感じた。過去の自分について知るというのは意外にも楽しいものだ。


 自分がどんな人物だったのか、どんな仕事をしていたのか、どんな生活をしていたのかなど過去の自分についてもっと知ってみたいと感じる。 

 それがたとえ望んだ結果でなかったとしても、サンは受け入れることができるはずだ。村を出て行ったら世界樹を目指しながら、自身のルーツを探ろうとサンは改めて心に誓った。


「あ、話してるうちについちゃったよ。ほら、あれが封印だよ」


 話に浸るうちにもう森の最奥にまでついてしまったらしい。視界に入り込むその封印は、機械のように見えた。地面から1メートルの円柱が飛び出している。

 円柱は様々な機械パーツを埋め込まれていた。ところどころ赤や青の光を放っていて神秘的な光景に見えなくも無い。


「俺がいくよ」

 

 円柱に向かおうとしたアイスをサンは肩を掴んで止める。見たところ危険はなさそうだが、もしものこともある。

 言われたアイスは少し不機嫌そうだったが、サンの言葉に渋々と従った。


 サンは警戒を解かずに、ゆっくりと円柱に向かう。円柱の上の円形部分には緑色のタッチパネル的なものが取り付けられている。恐らくこれはかなり高い技術力を持った者が作った装置だろう。

 緑色のタッチパネルに手を伸ばすと、ウィンという音と共にタッチパネルに文字が表示される。


『Release Complete』


「解除済み!? アイス、上だ!!」

  

 解除済みの文字を見た途端、上からあの視線を感じ、サンはうしろにいたアイスに叫んだ。


 その瞬間、無数の漆黒の魔獣たちが上から降り注いできた。

 



 

 







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