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プロローグ

 この世界の名前はアストリア。広大な大地にさまざまな種族が入り乱れて暮らしている。

 そんな世界のはるかてっぺんには世界樹と呼ばれる大木が浮かんでいた。そんな大木から1人の少年が落ちてくるところでこの物語はスタートする。


***

  

 少年は宙に放り出されながらも、体に装着されている飛行機械を使おうとする。しかし、それは叶わない。機械の損傷が激しく、本来の機能が作動しないのだ。見れば腰に取り付けられている機械は傷だらけで青い火花が散っていた。


(これじゃ、機能も発動しないわけだ)


「「「「「ギギギ」」」」」


 少年はその刹那、背後から多数の羽音を感じ、空中で体を回転させることでうしろを振り返ることに成功する。


 その正体は予測通り30匹ほどの"ガイア"たちだ。体長30センチぐらいの大きなハエのような見た目である。一見生き物に見えるがその正体は紛れもなく科学者たちが作り出した探索器である。その証拠に赤い目から次々に緑色のレーザが飛び出してきている。

 やがて体のあちこちにレーザの光が当てられていく。しかし少年とて、ただでやられるわけにはいかない。


 少年は手っ取り早く、1番自分の近くにいたガイアに左手の手のひらを伸ばす。その瞬間少年とガイアの位置が入れ替わり、少年のいた場所に1匹のガイアが、ガイアのいた場所に少年が移動することとなる。少年は魔力を行使することで氷の足場を作り出し、空中からの落下から解放される。

 結果、1匹のガイアが無数のレーザ光線を喰らうこととなり、作り物であるガイアたちにも混乱が生まれ始める。


 少年はわずか0、1秒の間に誰が敵のボスかを頭の中で考察する。ガイアは群れのボスを潰されたら、思考停止するのだ。そしてそれは一見1番先頭の巨大なガイアかと思われる。しかしそれは罠である。

 敵がみすみす自身の弱点を晒すとは思えない。よって1番、ボスである確率が高いのは1番後方にいる小さなガイアだ。


 そのガイアは集団の後ろに隠れひそんでいる。弱いからでも集団の中での地位がないからでもない。そこが1番の安全地帯だからだ。

 少年は頭の中で情報をまとめ終わると、両腕を群れのボス?に向かって重ね合わせる。ガイアたちは0、1秒の間に少年がどこにいるのかを突き止めたらしい。ギギギという耳に触る声を発しながら一斉に近づいてくる。


(遅い……!!)


 少年は重ね合わせた手のひらから無数の氷の粒を発生させる。それは使用者の意思に従うようにガイアの体に向かって突撃していく。

 それはガイアの身体全身にめり込み、時を待たずにガイアの体は内側から破裂する。緑色の血飛沫が空中に広まり、少年はその生々しさから軽く左目を細める。


 周りのガイアたちはさっきまでの威勢はどこに行ったのやら、一斉に動きを止め始める。やがてお互いに共食いを開始し始めた。

 ガイアは基本的に荒っぽく同族であっても自身の糧となるエサとしか見ていない。


 そのため群れのボスがガイア同士の衝突を避ける一種のブレーキのようなものになっているのだ。

 しかしそのブレーキがなくなったいま、ガイアたちの衝突を止めるものは誰もいない。ただ1人を除いては……。


「お、ボスを殺しちまったのか!? 結構引っ掛けてたんだけどな〜〜」


 世界樹の上から黒い翼を生やした大柄の男が降りてくる。それは男の黒い髪と黒目によくヒットしていた。

 男はそのまま少年の方へ滑空してくる。本来ならこんなやつ少年の敵ではない。しかし戦場をくぐり抜け続けた少年にはもはや戦う魔力は残っていない。

 しかし最後まで抗って死ぬのが帝国兵のきまりである。


 少年がそんな覚悟を決めたからこそ、黒い翼の男が少年の前で方向転換したのは意外だった。男は空中を飛行しながら右手に紫色の炎を出現させる。

 使い手が少ないことで有名な闇魔法だ。少年でさえ間近で見るのは初めてである。


 男は闇魔法を纏いながら次々と周りのガイアを蹂躙していく。共食いに夢中なガイアたちはなんら抵抗もせずに男の攻撃によってチリになっていく。

 そんな命を冒涜するような行いに流石の少年も眉を寄せる。男は全てのガイアをなぶり殺した後に緑色の血に濡れた拳を舌で舐める。そして少年の目の前に対面する。少年は何事もなかったかのように戻ってくる男に悪辣を浴びせる。


「ほっといても勝手に自滅しただろうに、残虐なやつだな。 奴らはお前らの仲間ではなかったのか?」


「へ、所詮は作り物だ。同情なんかいらねぇよ。邪魔だから片付けただけだ!! なんせ、俺がずっと待ち望んでいた英雄様とのご対面に、あんなバケモンども不釣り合いだろ?」


「あいからわずお前らユースタスの民の思考は理解できん。戦場に舞台のことを考え出すとはな……」


 男の言葉を素直に解釈するなら自身の戦場の舞台に、醜いガイアはいらないということだろう。生まれが違うと考えもこうも違うものらしい。少年は男を理解する必要はないと感じる。どうせ、ここで死ぬ命だ。

 少年は左手を眼前に伸ばし、残った魔力全てを使うことで氷の剣を生み出す。長さ1メートルほどの大きな氷剣だ。

 少年はそれを両手で持ち上げることで前のめりに構える。男は戦闘体制に入る少年に対して下劣な笑みを浮かべる。


「そう、そう、そうでなくちゃな!! 英雄様〜〜!!」


 男は空中に飛行したまま少年の方へ勢いよく滑空してくる。恐らく少年に対して突進してくるつもりだろう。

 あれぐらいのスピードなら直前で横飛びし、手に握られている氷剣を突き刺せばいいと少年は考える。


 まさに男と少年が激突しそうなその瞬間であった。世界樹のてっぺんから一筋の光の光線が飛び出してきたのは……。それは男の体を貫通し、その下にいる少年に迫ってきていた。

 聞けば光のスピードとはとてもではないが、人間が認識できるものではない。人間が瞬きをする間でも光ははるか彼方に飛んでいくという。


 だからこそ光魔法はスピードにおいてはこの世で最も優れているものだと言われていた。何故なら、その攻撃はまともな人間ならかわせるわけがないからだ。

 そう、それがまともな人間ならば……。


 少年は世界樹のてっぺんが光った時嫌な予感がし、予定よりも早くに右側の氷の足場を蹴る形で、横飛びをしていた。その反射神経は誉められたものだが、この攻撃の前ではさしたる意味をもたなかった。

 少年の胸を貫通するはずだったその光は少年の頭を強く掠めた。掠めた箇所から血が溢れ始め、明らかにこれは致命傷であった。


 刹那、少年は脳が焼かれるような激しい激痛を覚える。まるで脳全体を炎であぶられているみたいだ。やがて体が熱に支配され、少年はなす術もなく地上に落下していく。

 薄れゆく意識の中、それは少年が最後に聞いた言葉だった。


「ち、余計なことしやがって。じゃあな、英雄様!!」


 そこで少年の意識は完全に途絶えた。




 


 

 



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