第98話 サインする時は気をつけましょう
食堂に入るとブランとゼランが既に席に座っていて私を見る。
「おはよう。アリサ」
「アリサ。おはよう」
ブランもゼランもニコリと笑う。
うっ! 今日も超絶イケメンのモンスター王子たちは絶好調ね。
放つ超絶イケメンオーラが輝いているわ。
「おはようございます。ブラン様、ゼラン様」
私はそう言って席に着いた。
「疲れは取れたかい?」
「はい。ブラン様。昨夜はゆっくり休めました」
「そうか。それは良かった。まだ疲れているなら今日も休んでていいよ」
「いえ、国王様より首席総務事務官の位をいただいたので首席総務事務官の仕事がどんなものか早く知りたいです」
「アリサは仕事熱心だね」
今度はゼランが朝食を食べながら話してくる。
「私はこのダイアモンド王国のことを知りたいのです。少しでも私にできることがあるならそれをやりたいんです」
私は正直に気持ちを話す。
「そうか。仕事熱心なところもアリサの魅力だもんね。それなら食事が終わったらクリスタルと一緒に総務事務省に行くといいよ」
「総務事務省ですか?」
「首席総務事務官は総務事務省のトップだからね。各省や私たちの執務室は中央宮殿にある」
ゼランの説明に私はまずこの国の組織図を確認しなければと思った。
どんな部署があるのか分からないと他の部署との協力ができない。
でもその前にこの王宮ダンジョンの地図が欲しいわねえ。
「あの、ゼラン様。この王宮の地図とかありませんか?」
ゼランとブランが顔を見合わせる。
「地図はあるにはあるが……。何に使うんだい?」
「この王宮は広いので地図がないと迷子になってしまうので……」
「迷子か。それは困るな。まあ、アリサは首席総務事務官だから特別に王宮の地図をあげるよ」
ゼランが笑ってそう言う。
うん? 王宮の地図を特別にくれる?
「ゼラン様。王宮の地図ってもしかして機密情報ですか?」
「まあね。元々、代々の国王が王宮を増改築して今の複雑な作りになってしまったんだけど、この複雑な王宮は敵を欺くための役割も果たしているんだ」
なるほど。敵が王宮に攻め込んで来た場合にすぐに王族のいる宮殿に敵が侵入できないようになってるのか。
「それなら私が地図を持ってるのはダメなのでは?」
「いや、アリサは文官ではナンバー2の首席総務事務官だからね。王宮内部のことを知るのは当然のことさ」
ゼランは何でもないかのように言う。
サラッと文官ナンバー2の地位だとか言ってくれるけど私に務まるのかな。
プレッシャーを感じるわ。
「それとブラン様。私が首席総務事務官として働くのに正式に国王様と雇用契約書を交わしたいんですけど……」
私は昨日国王に「首席総務事務官」に任命されたけどそれを客観的に示す証拠が欲しいと思っていた。
国王様には悪いけど国王とはいえ口約束だけで首席総務事務官の仕事をするのはどうかと思ったし他の人間が新参者の私を首席総務事務官として認めてくれるか分からない。
「ああ、ワイン伯爵領では雇用契約書を結ぶのが義務化されたんだよね。分かったよ、契約書を作成して後でアリサに渡すよ」
「ありがとうございます。ブラン様」
ブランとゼランには私がワイン伯爵領で行ってきた領地改革についての話は手紙で伝えてあった。
「ついでに私との結婚証明書にサインするのはどうだ? アリサ」
ブランが何気ない調子で聞いてくるのでうっかり頷きそうになって私は慌てて首を横に振る。
「いえ。それはまたゆっくり考えさせてもらいます」
「そうか。私はいつでもサインするからサインしたくなったら言っておくれ」
「ブランじゃなくて私もいつでもサインするから」
ブランもゼランも面白がるように言ってくる。
くっ! 油断も隙もないわ。
気をつけないと気付いたら結婚してたってことになりかねないわ!
自分がサインする書類はきちんと確認しないとね!




