第89話 王宮は迷宮です
「アリサ。待っていたよ」
私は自分の名前を呼ばれて見上げてた首をそちらに向ける。
そこには白い王太子の正装姿のブランがいた。
そしてその横には紺色の王子の正装姿のゼランもいる。
相変わらずの超絶イケメンモンスター王子たちだが私はすぐに違和感に気付いた。
「君が王宮に来るのをとても楽しみにしていたんだ」
ブランがそう言うが私はその違和感がなんなのかすぐに分かった。
「貴方、ゼラン様ですよね。何で王太子の服を着てるんですか?」
そう、私には分かった。
ブランもゼランも双子で初対面では見分けがつかないほど外見が似ているが私は確信を持っていた。
今、白い王太子の服を着てるのはゼランで紺色の王子の服を着てるのがブランだ。
二人は私の言葉に目を瞠って驚いていたが次の瞬間二人の言葉が重なった。
『なぜ分かった!?』
「え? だってブラン様はブラン様だしゼラン様はゼラン様だし、間違いようがないですよ」
私の言葉にブランやゼランを警護していた騎士たちが騒めいた。
な、なに? 私なんか変なこと言ったかな?
それとも何か理由があってブランとゼランは入れ替わってて言ってはいけないことだったかしら?
「どういうことだ? ブラント王太子様とゼラント王子様が入れ替わっているのか?」、そんな騒めきが聞こえて来る。
え? みんな入れ替わってることに気付いてなかったの?
「すごい! さすがは私の姫だ。私たちが入れ替わっていることなど両親すら気付かないのに」
「アリサはやはり素晴らしい女性だ。私たちを間違うことが無いなんて」
ブランもゼランも感動したように胸に手を当てて私を見つめている。
その緑の瞳には熱がこもっているように感じるのは私だけかしら。
『惚れ直した!!』
「はい!?」
再び二人の声が重なり私は驚く。
惚れ直したって、二人を見分けただけで?
私には実際に双子の弟たちがいたがその弟たちも子供の頃は面白がってお互いになりすまして両親や兄を騙して遊んでいたが私は絶対に弟たちを見間違ったことはなかった。
弟たちにも「なんでお姉ちゃんは僕たちのことを間違えないの?」と聞かれたことはある。
だけど私にもその理由はよく分からない。
どこが違うとはなかなか口で説明できないのだが、私には双子であっても一人一人の存在感が違って感じるのだ。
今、目の前にいるブランとゼランも同じように私にはブランはブランにしか見えないしゼランはゼランにしか見えない。
「ちょっと待ってください! ブラン様、ゼラン様。二人を見分けただけで惚れ直したとか冗談ですよね?」
「なぜだ?私たちを個人として見てくれているからアリサには私たちがどちらか分かるのだろう?それだけで私たちにはアリサは特別な存在だ」
「そうそう。私たちの入れ替わりに気付いたのはアリサが初めてなのだから」
ブランもゼランもニコリと笑みを浮かべる。
うっ! 超絶イケメンビームを感じるわ!
ビームってなんだ?
ビームはビームなのよ! 何度見てもこの笑顔は反則技だわ。
「それより私の住む場所を確認したいのですが……」
私は話題を変えることにした。
「ああ、そうだったね。一緒に行こう。ついておいで」
そう言って王太子の服を着てるゼランが王宮に入っていく。
私はその後をついて行き、ブランもクリスもその後に続く。
そして王宮に入ると今度はいくつもの廊下を曲がったり小さい階段を上ったり下りたりして方向感覚が分からなくなっていく。
私はけして方向音痴ではない。だが今は断言できる。今、ブランやゼランとはぐれたら絶対迷子になると。
くっ! ここは王宮じゃなくて迷宮なの!?
まさかこれがこの世界のダンジョンとか言わないわよね!?
扉を開けたらモンスター登場とかありませんように。
あ、モンスターは既にここにいたわね。
王宮の中が複雑で広くて今どの辺を歩いてるなんか分からない。
「さあ、着いたよ。この渡り廊下を渡ったらアリサの部屋のある宮殿だよ」
先頭を歩いていたゼランの声が聞こえた。
ようやく着いたわ……。
王宮内歩くだけでダイエットできそうよ。




