第85話 無駄遣いはいけません
明日はワイン伯爵家のある町での祭りの日だ。
町は祭り用に家などに飾り付けが行われている。
当日は屋台のようなお店も出るらしい。
この世界に来て初めての祭りだから私は楽しみだった。
当日はクリスと護衛のジャッカルと三人で出かける予定になっている。
そして今日もスミスが手紙を持ってやって来た。
スミスが子爵位を持っていることには驚いたがスミスはそのことを自慢することもなく「機密文書」扱いの私と王子たちの手紙を運ぶ仕事に専念していた。
もうすぐスミスもこの役目から解放されるわね。
私とクリスが王都に出発までの日数を数えたら今回スミスが手紙を運んで来たのが最後の手紙となるだろう。
私はブランからの手紙を開封する。
『王宮ではアリサを迎える準備がほぼ出来ています。アリサの住む場所はゼランとも相談して邪魔者が入らないように王宮内の一部に新しく宮殿を建てました。気に入ってくれるといいのだけれど』
はあ!? 私のために王宮内に「宮殿」を建てたですって!!??
なんでそんなワガママが通るの!?
周囲の人間はなんで止めないのよ!
なんかブランとゼランの『絶対逃がさない』という意志を強く感じるわ。
私はブルリと寒気がした。
そりゃ、ブランもゼランも嫌いじゃないし、むしろ好意は持ってはいるけどさ。
まるでモンスターの生贄にされる気分よ!
とりあえず続きを読みましょう。
『アリサが身分は文官の身分で王宮に来たいと言っていたのでアリサにはちゃんと文官の役職を用意しておいたからね』
まあ、ちゃんと約束は守ってくれるのね。
そうよ。私は文官としてまずはダイアモンド王国について知りたいのよ。
ブランとゼランに求婚はされているがまだ二人のどっちとは決められないしね。
でも文官の「役職」ってどんなものかしらね。
私が以前クリスに聞いた話では文官と一言で言っても日本の公務員のようにやる仕事によって職場が分かれているらしい。
宰相が文官の全てのトップではあるらしいのだがお金を扱う部署は財務事務官というらしいし教育や文化的なものを扱う部署は教文事務官とかいうようにいろんな呼び方があるそうだ。
ブランとゼランが私に何の部署のポストを用意したかは分からないが私からは特にこれをしたいとは言ってないのでとりあえず与えられた仕事はしようと思っている。
クリスもできれば同じ部署だといいわね。
やっぱり知り合いがほとんどいない王宮で働くのには少しでも知ってる人間が近くにいるといい。
でもあまり高望みしてもいけないだろう。
そもそもゼランの婚約者は宰相の娘で私のために婚約破棄されたんだから宰相の下で働く私の肩身は最初から狭い。
ブランの手紙を読み終わって次はゼランの手紙を読む。
『ようやくアリサと会えるかと思うと心が躍るよ。アリサは手紙で自然が好きだと言っていたので王宮の一部を壊してアリサ専用の庭園を造ったんだ。気に入ってくれるといいけど』
はい!? そりゃ、確かに花や木を見てると心が安らぐとは書いた覚えがあるけどさ!
王宮の一部を壊して私専用の庭園を造ったですって!?
『庭園の名前はアリサの名前の一部をもらって「ホシツキ庭園」にしたよ』
私の名前なんてつけたらみんなに「この女のために王宮の一部を壊して王子が庭園を造った」って宣伝するようなものじゃないの!
私はゼランからの手紙も読み終えてある決意を胸にする。
私がまずやる仕事は二人のモンスター王子に無駄に国のお金を使わせないことね!




