第82話 スミスの正体が分かりました
「それにしてもよくすぐにワイン伯爵領まで来れましたね。お仕事とかあったんじゃないんですか?」
「アリサより大事なモノはない。仕事は帰ってからする」
「私も会議中だったけどそれほど大事な会議でもなかったから抜け出して来たんだ」
私の質問にブランもゼランも悪びれたところもなく平然と答える。
この二人に任せておいてダイアモンド王国の未来は大丈夫かしら?
私は心底この国の未来が心配になってきた。
二人の王子に想われるのは嬉しいが一人の女性のために政治を投げ出すようでは困る。
小説の中では「傾国の美姫」とか出てくる話があるけど私は「美姫」じゃないしさ。
間違っても私が「傾国の美姫」なんて言ったら美紀に爆笑されるわ!
「ブラン様、ゼラン様。政務を蔑ろにしてはいけませんよ。私は仕事を大事にする人の方が好きですし」
「そうなのか!? ならば政務を頑張るよ!」
「私もブランと同じように仕事を頑張る!」
ブランとゼランは私の手を握って私に誓う。
こういうところは可愛いのよね。
26歳の男性を可愛いって思うのは悪いことかな。
「では明日にはお二人とも王宮にお帰りくださいね」
「分かった。アリサが来るのを待っている」
「私もだ」
ブランとゼランはそう言って翌日王宮に戻ることになった。
今回は急いできたのか馬車ではなくブランもゼランも馬に乗って来ていた。
その姿はまさに「白馬の王子様」だった。
ちなみにブランの馬は本当に白馬だがゼランの馬は黒馬である。
「それじゃあ、春に会えるのを楽しみにしている。アリサ」
「元気でね。アリサ」
そしてブランとゼランは自分たちが連れてきた王国軍第一特殊部隊の者たちと帰って行った。
マジで二人のモンスター王子たちが来るとは思わなかったわ。
そこで私はスミスがまだ残っているのに気付いた。
「スミスは王宮に帰らないの?」
「私はアリサ様の手紙を受け取ってから帰りますので……」
そうだった。そもそもスミスが手紙を届けに来て私がいないことに気付いてこんな大騒ぎになったんだった。
「そうだったわね。手紙の返事はすぐに書くわ」
そうは言ったものの今別れたばかりの人に手紙を書くのもなんか変な感じね。
でも私が手紙の返事を書かないとスミスは王宮に帰れない。
「スミス。貴方も大変ね。この数か月手紙を運ぶだけで王宮とワイン伯爵家を行ったり来たりするなんて」
「いいえ。アリサ様とブラント王太子様とゼラント王子様の手紙は機密文書扱いですのでその文書を運べるのは第一特殊部隊副隊長として誇りに思っております」
「え?」
今、手紙が「機密文書」扱いって言った?
まあ、私的な手紙をブランもゼランも人に見せたくないんだろうけど、それはやり過ぎなのでは?
それに今、サラッと言ったけどスミスって第一特殊部隊の副隊長なの!?
そんなエリートが私と王子たちの手紙を運んでいたなんて驚きだわ。
あ、でもよく考えたら王太子や王子にスミスは直接会って手紙を渡しているんだから王宮に普通に入れるほどの身分があってもおかしくない話よね。
やってる仕事が郵便配達だったからスミスの正体について深く考えたことはなかったわね。
「スミスって第一特殊部隊の副隊長だったのね。初めて知ったわ。それにスミスのフルネームは何ていうのか聞いてなかったわね」
「これは失礼いたしました。私はスミス・ドライバーと申します。爵位は子爵を賜っています」
「え? スミスって子爵なの?」
「はい。二年ほど前に子爵位を継ぎまして。これでも貴族の端くれです」
スミスは苦笑いをする。
そりゃあ、第一特殊部隊の副隊長にもなる人間だから身元がしっかりした人間であることは分かってたつもりだったけど子爵様とはね。
でも仮にも子爵に郵便配達させるモンスター王子たちも相変わらずぶっ飛んでるわ。
「分かったわ。じゃあ、手紙の返事を書くから応接室で待っていてちょうだい」
「承知いたしました」
私たちは屋敷内に戻る。
さっそく自室で私は王子たちへの手紙を書き始めた。




