第73話 危険な任務です
「危険過ぎます! 僕は反対です!」
「それは大胆な案だな」
私の提案を聞いたクリスは反対の意を唱え、ジャッカルも唸っている。
マックスに至っては呆れて声が出ないようだ。
そう、私が提案したのはその盗賊団を警備員にしようという内容だ。
直接盗賊団の頭に会って盗みの罪をチャラにする代わりに警備員として働いてもらうように取引をするために荷物の中に私が隠れて荷物ごと盗賊団に盗まれて彼らのアジトに行こうという作戦だ。
だってその盗賊団って剣の腕が高く軍隊のように統率されていて人殺しはしない集団なのだ。
私は直感的にその盗賊の頭とは話の分かる漢と感じた。
もし彼らを警備員として雇えるなら罪の軽い囚人たちを働かせる時の見張りにもなるし市場専用の警備員も配置できる。
警備隊が高い給料なのは彼らはそれ相応の身分のある者たちが警備隊になるためだと前にクリスから聞いている。
ならば盗賊団はそれよりは安価な給料で雇うことになっても盗賊団側だって今までの罪をチャラにして安定した収入が得られるのだから説得できないことはないはずだ。
「大丈夫よ。彼らは今まで人を殺したことがないなら私も殺されないわ」
「では私が代わりに荷物に隠れるというのは?」
ジャッカルが提案してくるが私は首をふる。
「ジャッカルが相手だったら盗賊たちは罠だと思うだけよ。ここは女性の私だからできることなのよ」
「しかし、アリサ。いくらなんでも無謀ですよ」
「クリス。私を信じてちょうだい。絶対に成功させるわ」
私はクリスの瞳を真っすぐに見る。
クリスは私の意志の固さを感じたのか溜息をつく。
「分かりました。まったくアリサには敵いませんね」
「ありがとう。クリス。それで盗賊団が出やすい所は分かっているの? マックス」
「え? あ、はい。だいたいの出現しやすい場所はいくつかありますが……」
「そう。なら作戦実行よ。クリス、荷馬車の用意はできる?」
「はい。それは任せてください。それより絶対生きて帰ってくださいね」
クリスは真剣な顔で私を見つめる。
大丈夫よ。私だってそう簡単に死ぬわけにはいかないのは分かっている。
「それと私がワイン伯爵家の人間だと客観的に証明する物は何かない?」
盗賊団の頭が私のことを知っているか分からない。
自分の身分を示す物があった方がいいだろう。
「それならこの指輪を持って行ってください」
クリスは自分の指に嵌めていた指輪を私に渡す。
「これは何?」
「ワイン伯爵家の後継者を表す指輪です。ワイン伯爵家の紋章と僕の名前が彫られてます」
私は指輪をよく見ると確かにワイン伯爵家の紋章とクリスの名前が彫られている。
「盗賊団もワイン伯爵家の人間を粗末には扱わないと思いますがもし話が決裂した場合はアリサの身代金を払うので生きて帰して欲しいと言ってください」
「クリス……。分かったわ。どうしてもダメな場合は身代金を払う約束で解放してもらうわ」
私はワイン伯爵やクリスのためにもこの作戦を成功させなければならないと心に誓った。
「では準備に入りましょう」
私たちは盗賊団をゲットするために動き出す。
う~ん、日本にいたら味わえないスリルよね。
さて人を殺さない盗賊団の頭という人物はいったいどんな人物でしょうね。
興味深いわ。




