第70話 王子から手紙がきました
数日後、ワイン伯爵家の私軍に「即応軍人制度」の導入が正式に行われた。
私はジャッカルと一緒に兵士の前で制度について説明したが兵士たちのほとんどは自分の村に帰れることを喜んでいた。
一部の者は「今更、農民になるなんて」と渋った者もいたがそれらの人間もジャッカルが説得して順次「即応軍人制度」の契約書を結んだ者から村に帰ることになった。
ジャッカルは兵士たちに慕われているのね。
私は制度に対して渋っていた兵士たちを最終的に納得させたジャッカルに感謝した。
それでもジャッカルのように元々ワイン伯爵領の人間ではない兵士も若干いたのでその人たちには希望すればジャッカルの下で「即応軍人制度」の事務仕事をさせることにした。
とりあえずこの件はこれで一歩前進ね。
私が自室に帰ってアンナにお茶を淹れてもらって休んでいると来訪者がやってきた。
扉がノックされて私が「どうぞ」と言うとクリスと見知らぬ男性が入って来る。
この人、誰かしら?
「アリサ。ブラント王太子とゼラント王子から手紙が来たそうです」
「え!?」
モンスター王子たちがこの伯爵家を出発してまだ五日しか経ってないのにもう手紙1号が来たの?
はや!!
「私は今後アリサ様とブラント王太子殿下並びにゼラント王子殿下との手紙を運ぶ役目を仰せつかったスミスと言う者です。以後お見知りおきを」
スミスは私に一礼すると二通の手紙を私に渡す。
差出人を見ると確かにブランとゼランの名前が書いてある。
それにしても本気で文通する気だったのね。
私を気に入ったことは気の迷いとかだったら良かったのに。
いや、でもあんな超絶イケメンを手放すには惜しいか……。
「ありがとう。スミス。返事は数日中に出すわ」
私がそう言うとスミスが動揺したような顔になる。
あら? どうしたのかしら?
「失礼ながら王太子様と王子様よりアリサ様の返事の手紙を持って帰るようにと厳命を受けておりまして、できればお返事を早く書いていただけないかと」
「へ?」
私の返事を持って帰るように言われてるですって?
「それじゃあ、私が返事の手紙を書くまでスミスは王宮に帰れないの?」
「はい。そうなります」
う~ん、あのモンスター王子たちがやりそうなことね。
このスミスって人も苦労するわね。
でもあのモンスター王子たちがスミスを罰したらそれはそれで困るわ。
仕方ない。返事を書くか。
「分かったわ。返事を書くからお茶でも飲んで待っていてちょうだい。クリス、スミスを応接室に連れて行ってくれる?」
「はい。分かりました」
二人が部屋から出ていくと私は手紙を手にして溜息をつく。
そしてまずブランからの手紙を開封する。
『親愛なるアリサへ。君は今日も元気でいるだろうか?君を想いながら私は幾千幾万の寂しい夜を過ごしています』
「ぶっ!!」
私は思わず飲んでいたお茶を吹き出した。
何が「幾千幾万の夜」よ。
まだ貴方たちと別れて五日しか経ってないわよ!
『君が領地改革をしているなんて驚いたがアリサは美人で優秀だからきっと改革をできると思います。私にできることがあったら言っておくれ。君のためなら火の中、水の中に入るのも躊躇わないから』
いやいや、ブランは仮にも王太子なんだから私のために命かけちゃダメだって。
その後も私を賛美する言葉が続き、ブランの手紙は終わった。
ふう、次はゼランの手紙を読むか。
『君は私の太陽だ』
「ぶっ!!」
私は再び吹き出した。
私のどこが太陽なのよ。黄金の金髪なびかせている貴方たちの方がキラキラ輝いて太陽のようでしょうが!
『今、王宮の中庭は薔薇の花が咲いている。でもアリサの顔を思い出すとそんな花たちが色あせて見えるよ。君は私の心に咲いたオアシスの薔薇の花だ』
はいはい。今度は薔薇の花ですか。
ゼランの手紙も読み終わり私は若干頭痛がしてきた。
自分のどこが気に入ったのかは分からないがモンスター王子たちは私に執着しているらしいことは分かる。
どうしてあんな超絶イケメンなのに中身が残念な男たちなのかしら?
でもあの時領主貴族の首を刎ねたとも言っていたし、敵に回すのは良くないわよね。
それに案外、この手紙もなんかあの二人らしくて嫌いではないわ。
私は不思議とその残念なモンスター王子たちを嫌いにはなれなかった。
超絶イケメンであることもあるが王子たちが自分のことを想ってくれていることは分かる。
美紀が聞いたら「結局、あんたはイケメンに弱いんだから」と言われそうだが。
私はブランとゼランに返事の手紙を書いた。
二人からの手紙のように愛情表現の言葉は使わないが元気にしていることとワイン伯爵領の改革が順調に進んでいることを書く。
よし! とりあえず返事は書けたわ。
でもこれからこのスピードで手紙が来るようになったら半年間でどのくらいの手紙の量になるのかな。
それを考えるとちょっと怖いわね……。




