第54話 お昼は屋台のあれです
私は一つの国の中で季節が逆転するという事実の衝撃になんとか耐えながら市場を見て回った。
ジャッカルが言ったようにここは果物を中心に売っている。
そして私は「ある果物」を発見する。
「まあ! イチゴだわ!」
私の脳裏にモチ大福屋のイチゴ大福が浮かぶ。
そうよ。イチゴがあるならイチゴ大福だってあるかもしれない。
希望を捨てないって誓ったじゃない、アリサ。
領地改革した暁にはイチゴ大福を探す旅に出ようかな。
「アリサ様はイチゴが好きなんですか?」
ジャッカルの言葉に私は頷く。
「ええ。果物の中では一番好きね」
「じゃあ、帰ってから食べるように買って行きましょう」
「え? でも私お金が……」
「これぐらい奢りますよ。おばちゃん、そのイチゴを一箱ちょうだい」
ジャッカルは売り子のおばさんに声をかけてイチゴを買ってくれた。
「ありがとう! ジャッカル」
「いえ。たいしたことではありません」
うう! イチゴちゃん! 久しぶりね。会いたかったわ。
私はジャッカルからイチゴを貰うと抱きしめる。
「そんなにイチゴが好きなんですか?」
「まあね。正確に言うと『イチゴ大福』が好きなんだけどね」
「イチゴ……だいふく?」
「いえ、何でもないわ」
少なくともこの国にはイチゴ大福が無いのはクリスから聞いている。
「そろそろお昼なんで何か食べますか?」
「そうね。どこか美味しいお店知ってる?」
「アリサ様は好き嫌いはありますか?」
「そうねえ。これといってないわ」
「ではこの先にラーメン屋があるんでラーメンでも食べますか?」
「え? ラーメン?」
ラーメンって、あのラーメン?
ワイン伯爵家の料理が洋食系だったからそれが普通だと思っていたけど……ラーメンがあるなら食べたいわ!
私は兄とよく家の近くのラーメン屋に食べに行ったのを思い出す。
兄は豚骨ラーメンが好きだった。
この国のラーメンは醤油系?味噌系?塩系?魚介系?豚骨系?
なんか見るのが楽しみになってきた。
「ラーメンはお嫌いですか?」
「いいえ。大好きよ」
「では行きましょう」
私とジャッカルはラーメン屋を目指して歩いて行った。
ラーメン屋はなんと屋台のラーメンだった。
屋台のラーメンなんて久しぶりねえ。
以前、残業で帰りが遅くなった時に食べた以来だわ。
だけど伯爵令嬢が屋台でラーメンとかって普通に考えるとすごい絵よね。
伯爵令嬢を屋台に誘うジャッカルはある意味勇者よね。
それとも私を伯爵令嬢と認識してないのかしら。
私がそう思っているとラーメン屋のご主人が私にラーメンを渡して来る。
この屋台ではラーメンに種類がない。
ただ、ラーメンとしかメニューが無いようだったので私はどんなラーメンが出てくるか楽しみだった。
私の目の前に出されたラーメンはなんと豚骨ラーメン!
ああ、お兄ちゃんを思い出すわあ。
私は久しぶりの豚骨ラーメンに舌鼓をうった。




