第5話 伯爵家の食事は質素です
「じゃあ、昼食でも食べようか」
ワイン伯爵の一言で私たちは食堂に向かう。
この世界の食事は初めてだ。
異世界に来てさすがの私も動揺していたのかさっきまで空腹感は感じなかったが「昼食」という言葉を聞いたらお腹が空いてきた。
でもこの世界の食事ってどんなのだろう。
普通に考えれば洋食っぽいモノのような気がするがここは異世界。
地球の常識が通じるか分からない。
でもモンスターとかいなさそうだしトカゲの丸焼きとかそんなものはないよね、さすがに。
それにここは伯爵家。きっと豪華な食事に決まってるわ。
そして私は先ほど考えていたモチ大福屋のイチゴ大福を思い出す。
もしかしたらこの世界にもイチゴ大福があるかもしれない。
私は隣りを歩くクリスに声をかけた。
「クリス。イチゴ大福ってここにある?」
「いちごだいふく……ですか?」
ああ、その反応で答えは分かったわよ。
「イチゴはありますがだいふくっていうのは聞いたことないです」
やっぱりね。期待した私が悪かったわよ。
でもイチゴはあるのね。
一つ勉強になったわ。
食堂に着くとワイン伯爵夫妻とクリスと一緒に席に着く。
給仕をやってくれる人がいてテーブルには料理が置いてある。
大皿で出して給仕の人が分けてくれるみたい。
スープは温かいのをお皿に入れて持って来てくれる。
あら、でもこんなモノなの。貴族の食卓って。
テーブルには豆を煮込んだモノと鶏肉っぽい肉の塊に野菜サラダとパンしかない。
なんかもっと豪華な食事を想像した私は拍子抜けしてしまう。
フランス料理のフルコース並みの食事を期待していたのに。
「どうかしましたか?アリサ」
クリスが聞いてくる。
だけどさすがに「もっと豪華な食事じゃないの?」とは伯爵夫妻の前では言えない。
「アリサ。口に合わないかい?」
ワイン伯爵も心配そうに私を見る。
「いえ。美味しいです。私にも食事の準備をしていただいてありがとうございます」
私は得意の笑顔で誤魔化す。
「遠慮せずたくさん食べてね」
ワイン伯爵は笑顔で料理を進める。
味は確かに美味しい。
でもこのドレスだとやっぱりウエストがキツイわ。
逆にここでフランス料理のフルコースが出てきたらやばかったかもしれないわね。
まずは少しダイエットしなくちゃ。
私が心の中でそう決めているとクリスが苦笑しながら言う。
「すみません。豪華な食事を期待していたのかもしれませんが我が家が持っている領地はあまり裕福な土地ではないので……」
いけない。顔に出てたかしら。
私は焦ってクリスに答える。
「いいえ。そんなこと思ってないわ。充分美味しい料理を食べれて幸せだもの」
そうよ。給料が少ない時期に夕飯をパン一つで済ませてた時代を思い出せばここにある料理はご馳走だ。
私はそう思い直す。
それに没落貴族の話だって小説では当たり前じゃない……って、ここはまだ没落貴族と決まったわけではないわね。
失礼な考えをしてしまった。反省しないと。
でも伯爵家とはいえ、クリスも言ってたけど裕福な暮らしをしているわけでもなさそうね。
「伯爵令嬢」って言葉に舞い上がってたけど元公務員の私に裕福な暮らしをただで与えてくれるほど神様は優しくないらしい。
まあ、いいわ。
衣食住が心配ないってだけ素晴らしいことだもの。
「そういえばアリサは何歳なんだい?」
ワイン伯爵の言葉に私は何も考えず素直に答える。
「23歳です」
「え!?」
ワイン伯爵は驚いたような声を上げた。
そこで私は気付く。
そうだ、たいがいこういう世界って10代のうちに結婚したりするんじゃなかったっけ。
23歳なんて日本じゃ若いけどここではきっと結婚適齢期を過ぎているんじゃないかしら。
ここはサバを読んでおくべきだったか……。
でも一度出た言葉は戻らない。
どうしよう。