第45話 罪は罪です
「そんな……。イリン村の村長が脱税をしていたなんて。しかも理由が水害の時の村の復興のためだったなんて……」
ワイン伯爵は私とクリスからイリン村の村長の脱税の話を聞いてショックでソファに座り込んだ。
分かるわ、お父様。貴方は人を疑うことを知らないような人だもんね。
しかもイリン村の村長は10年前から脱税していたことになる。
そんな長い間、騙されていたらショックよね。
「私が悪かったんだ……。もっと領民の生活をよく見ていたら……」
ワイン伯爵が落ち込むのは分かるが既に起きてしまったことを無しにはできない。
「お父様。先ほど説明した通り、村長さんの刑罰はお父様の権限で「死刑」以外にできます。その方向で手続きしていいですか?」
「もちろんだ。だが無罪にすることはできないのかね?」
「お父様。気持ちは分かりますし今回の件は情状酌量の余地があることは私も理解しています。しかし、罪は罪です。何かしらの刑罰を与えなければ他の領民に示しがつきません!」
私は敢えて強い言葉でワイン伯爵に言う。
私だって今回の事情を知ってる者としては助けてあげたい。
だが罪を犯した者を刑罰を軽くすることはできても無罪にするのは反対だ。
領地を統治する者の姿を領民は見ている。
ここで村長を無罪にしては犯罪に走る領民が出てこないとも限らない。
統治者は処罰する時は処罰するという態度を見せなければならないのだ。
私も公務員の時に「病気で働けずお金が支払えない」と相談に来る住民もいた。
もちろん救済できる場合もあるが基本的に役所としてはその人の事情が分かっていても「支払ってください」としか言えない時がある。
どんなに自分がその住民に酷なことを言ってるかは分かっているが公務員は法律を破る訳にはいかないのだ。
特に所得税などは前年度の収入で計算されているので急に病気で倒れて仕事をクビになって収入が無くても税金の請求はやってくる。
障害者になれば障害年金がもらえるだろうと安易に考えてはいけない。
身体障害者の認定を受けるまで数か月から一年程度手続きにかかる場合があるし障害年金がもらえるのは基本的に一級や二級の障害者認定を受けた者だけだ。
体に障害があると言ってもその障害が三級以下だったりそもそも該当する障害でなければ障害年金はもらえない。
法律とは決して住民に優しく出来ているとは言えない部分もある。
でも逆に法律で救われる人たちもいる。
公務員はそのジレンマを抱えながら仕事している人も多い。
「そうだな。アリサの言う通りだ。では死刑以外の刑罰を考えよう」
「そうです。お父様。とりあえず法律書では死刑以外の刑罰にする場合はその理由と与える刑罰を書いた決定文書が必要のようなので様式は用意して置きましたので記入してサインしてください」
「分かった。ありがとう。アリサ」
ワイン伯爵の目には涙が光っていた。
お父様。貴方は統治者として厳しくもその優しい心を忘れないでください。
領民はきっとお父様のことを好きでいてくれます。
イリン村の村長には「罰金」と今までの脱税したお金の分を伯爵家に支払うことにさせた。
そして村長としての身分のはく奪も決定された。
「村長の件はこのくらいにして他の刑務所に入っている者たちを働き手とする案はどうですか?」
「そうだなあ。やはりクリスの言ったとおり囚人を見張る者をどうするかが課題だろう」
ワイン伯爵はそう言った。
なるほど。やっぱりそこがネックね。
とりあえずそのことを解決しないとこの案は無理ということね。




